photo by Hernán Piñera

「大学を新卒で出た後にピースボートにのって通訳・翻訳をしてみたら、意外と通訳が面白かった。仕事でやりたいと思った。」

という20台女性の相談を受けた事がありました。ここではこの方との相談内容をベースに、どのようにして通訳・翻訳キャリアを切り拓いたかを紹介したいと思います(ちなみに、ピースボートで通訳をした人のインタビュー音声は、やのなのね通訳翻訳研究所にアップしています。)。

最初にスカイプで相談したり、メールのやり取りをしたのですが、その中で感じた内容としては、以下の3点です。

①地方在住で、通訳・翻訳など英語を日常的に使用する仕事を得るには、東南アジアの方が選択肢が広い。

エントリーで未経験だと、日本国内では面接までたどり着くのに一苦労です。

東京との往復・ホテル代を考えると、私の電子書籍「月10万円で始める海外就職」にも書いたように、東南アジアに出てしまう方が(シンガポールに長期でいるのはあまりお勧めできませんが)いいかもしれません。

②東南アジアに出ても仕事がもらえず、帰国する事になるケースもあるかもしれない。だからこそ必要なのは「どうしてもやりたい」という気持ちと覚悟。

不確定要素の高い中、もしかしたら仕事が決まらず無様に日本に帰るかもしれない。それでもやりたいならやればいいし嫌ならやめればいい。

そこは本人の自由です。ある意味で、そこの踏ん切りがつかないなら、仕事を始めても厳しい環境に耐えられないので辞めた方がいいかもしれません。

③日本で海外就職の用意をしても、限界がある。ある程度になったら海外に出てしまう方が早く、道も開けやすい。

海外のエージェントの人の言うことは様々です。

通訳・翻訳は求人自体が少ないため、一次面接であろうと二次面接であろうと面接のアポイントメントをとった上で渡航した方が賢い
現地にいる方が面接が入ってきやすい、非公開求人は現地にいないと活用できない

上記は相反する様ですが、言っていることは両方正しいです。アポを取って渡航したほうが賢いですが、賢い人が常に勝つわけでもないです。逆に運が無ければ、賢くてやる気に満ちていても仕事がもらえない可能性もあります。

面接はある意味で早い者勝ちな面もありますので、現地にいるほうがいいと思います。実際、彼女もUAEの求人に応募した際、現地支社の方からなかなか連絡が来ず、こちらから連絡をとったところ、既に決まってしまったばかりと言われたそうです。

そこで実際に現地に赴いて面接した結果、マレーシアで一つ、シンガポールで一つ内定をいただいたようです。

給料・条件はシンガポールの方がいいものの、業務経験として次につながるのはマレーシアで、どちらにするか悩んだ結果、通訳・翻訳業務が多そうなマレーシアを選んだようです。

また、この女性は以前交換留学などで海外在住経験があり、

・異文化での生活や外国人と仕事をする事
・海外で働くことに対する理想のイメージと現実とのギャップ

に対して不安に感じていた点があったので、私が以前作成したTogetterのリンク(「大学生時代の海外経験」と「海外で働く夢」に関して感じた事。)を送りました。

こういった心理面での準備も必要です。その他、「セカ就! 世界で就職するという選択肢」、「アジア転職読本」あたりも、就職活動をする前に読むようにお勧めしました。

ちなみに、私自身の経験をもとに、東南アジアにおける海外就職についての記事を執筆したことがあります。興味のある方は是非こちらも参考にしてください。

エントリーレベルの場合、海外のほうがチャンスが大きい理由とは?

私は複数の国をまたいで生活・転職・実務経験を積み、キャリアアップしてきました。その経験から、海外において通訳・翻訳のエントリー業務を始めるメリットは主に以下の3点になるのではないかと感じています。

競争相手が減る

国内と海外の労働市場と比べると、現地採用でしっかりと通訳・翻訳ができる人、及び実務経験者は少ないですし、わざわざ海外に行って仕事をする日本人もあまりいません。

その代わり、海外市場では、日本で日本語を勉強したローカルの外国人が参入していることもあり、採用の際にはライバルになります。・・・がそういった人々は日本語も英語も母語ではないため、現地の人で参入できる人は限られています。

随時募集が発生している

入れ替わりが激しく、多くの人は採用からほぼ3年以内に離職します。一つの会社で長期間現地採用として仕事をする人も0ではないですが、基本的にはあまりいません。

1・2点目が原因でエントリーに求められるレベルが低い点

「日本の派遣会社のお眼鏡にかなわないレベル」でも「長い目でみればかなり戦力になるレベル」は、日本よりずっと採用されやすいです。

ただ、前回の記事でも書いたように、現在のところ(2016年2月)、市況としては東京もそこそこエントリーの仕事があるようです。自分の懐具合や家などの場所・事情を考えてベストの選択をしていただければと感じています。

マレーシアに就職が決まって、仕事をしてみての感想は?

マレーシアの日系製造業に就職して稼動開始した後に直接お会いして、話を聞く機会がありました。感想としては、一言で言うと「超大変」だそうです。

まぁ、当たり前ですが。その大変さをまとめると以下のような感じです。(インタビュー音声に関するブログ記事はこちらです。)

  • 社会人経験が無いので、「おじさん」の話す日本語の意味が分からない
  • 業界用語・専門用語が分からない
  • 背景が分からないので、会議の流れについていけない
  • 上記が英語になったらもっと分からない
  • マレーシア人の話す英語に時々ついていけない
  • 社内のバイリンガルの人は話の内容を全部分かっているので、その人の前で通訳をするのが物凄いプレッシャー
  • 社内に通訳が自分しかいないので、全部一人でやらないといけない(けど実際はできていない)
  • 異文化の中で一人で生活
  • マレーシアでは外国人が仕事をする場合、開始から半年ほどは所得税が最高税率(26%)となるので、ただでさえ安い給料がさらに差し押さえられるのがつらい(半年後に、差額は還付されますが)。

同じように新卒から通訳学校で勉強をして日本で社内通訳をはじめた知り合いもいます。その人は、1社目で自信を持って通訳対応ができるようになるまで約1年かかったそうです。

マレーシアの彼女も最初の約1年は厳しい戦いを強いられそうですが、職場の人が優しく接してくれており、その期待に応えられるように頑張りたいと思っているようです。相談後に、以下のメールをいただきました。

「矢野さんに頂いたアドバイスを活用しながらなんとか背景知識を学んだりして今の自分と求められている仕事のレベルのギャップを縮められればと思います。問題を解決するのは常に地味な努力の積み重ねのように感じます。」

このように思えているのであれば、時間が経てば大丈夫になるのではないか、と感じました。また、しばらくしたら直接お会いしてお話しさせていただければ、と思っています。

次の記事では、エントリーレベルの通訳・翻訳における良くない「あるある」とその処方箋をまとめます。