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日本で稼動している通訳者のほとんどは、仕事を得る前に通訳学校に通います。私も合計で2年間(2009年4月~2011年3月)サイマルアカデミーに通いました。そこでは、クラスが5段階のレベルに分けられています。

元々、基礎的な語学力がある人はクラスでの通訳練習を経てどんどんクラスが上がっていくのですが、私は真ん中の3段目より上のレベルに上がれなくなっていました。

少なくとももう一つクラスを上げないと(上位2クラスに上がらないと)、学校からは通訳・翻訳のフルタイムの仕事がほとんど紹介されないシステムになっていました。

上のクラスに行けないとフルタイムの仕事につけない、でもフルタイムの仕事をして現場経験を積まないと上のクラスに上がれそうにない、という状況でした。

その状況を打破するため、2011年4月からインドでインハウス翻訳を2年しました。この「はじめの一歩」問題は、通訳・翻訳志望者には常について回る問題です。

通訳学校講師の履歴書における最初の仕事を聞いてみた。

通訳学校の講師に前職を聞いてみたところ、英語を使った実務の他に、日本国内での英文事務やリサーチャー、秘書をされていた方もいました。それぞれの内容をまとめます。

リサーチャーの場合

大量の日本語・英語の文献を読みこなしてまとめる、という作業になるので英語力、要約力、読解力がある人が採用され、業務を通して更に磨きをかけるようになります。

また、特定の業界の内容に精通していくため、その領域での通訳をする場合比較的スムーズに入れそうな印象です。

秘書の場合

求人の業務内容などで以下の様な内容が含まれる事があります。

  • 社内文書の英語⇔日本語翻訳
  • レポート(例:技術や財務にまつわるもの)作成
  • 会議通訳(ウェブ会議・部署内会議・役員会議など)

肩書きは秘書ですが、仕事の内容は通訳・翻訳の要素が入ってくることがあります(もちろん、純粋な秘書業務ばかりで英語に関わらない案件も多いですが)。

英文事務の場合

事務で扱う内容や、上司からの指示が英語だったりします。そういった場合、自然と英語を使って仕事をする環境になります。または、業務上の必要から秘書のような、またはリサーチャーのような仕事を頼まれることもあります。

いきなり翻訳の場合

いきなり翻訳から業務に入る人もいます。特に最近の求人動向の流れでは、未経験からIT翻訳に入り、そこから他の業界に移り通訳・翻訳経験を積む人が増えている、という声を複数の知り合いから聞きます(時々、いきなり通訳から始める人がいますが、基本的に少数です)。

通訳の求人数に最も影響するものは何か?

一言で言うと、世の中の景気にものすごく左右されます。私が就職活動をした頃(2009年~11年)と今を比較してみましょう。

en派遣というサイトでの東京における通訳・翻訳の案件数は、2009年から2011年では40~60件、2016年1月では221件と、案件数がほぼ4-5倍となっています。

当時と比較すると募集の数が増えている分競争率は下がっている、つまりエントリーの人にとってはやりやすい市況のはずです(2016年2月現在)。

実際、「やのなのね通訳翻訳研究所 」に相談があった通訳・翻訳未経験の方たちは、東京で何とかエントリーレベルの翻訳の仕事を勝ち取り、はじめの一歩を踏み出しています。

地方に通訳・翻訳の仕事はあるか?

同じくen派遣で見ると、2016年1月の全日本での通訳・翻訳の募集件数はこんな感じでした。

東京)221件
北海道)1件
東北)0件
北陸)0件
東海)15件
関西)25件
中国・四国)2件
九州)1件

明らかに東京一極集中で他はほとんど仕事が無いといえる数値に見えますが、地方在住の知り合いによると、地元密着型の求人サイトなどをもう少し丁寧に見ると可能性が広がるようです。

特に、製造業において世界的に競争力の高い会社の工場がある都市では、その会社での通訳・翻訳の仕事が比較的に多い、という話も聞きます。

例えば、名古屋~静岡あたりだと、車やバイクなどのメーカーが集積していますので、そのあたりが若干反映された数値になっている、とも言えます。

ただ、そういった案件で翻訳のみだと時給1400円くらいが相場なようです。単純に計算すると月収で20万円ほどです。ここから家賃や保険、年金を引くと相当厳しいです。懸念としては、

  1. 地方とはいえ、日本での生活費と給料の比率からして比較的に厳しい
  2. 地元以外での求職活動が長期化すると、国内で面接に行く交通費がかさむ
  3. 超ニッチな業界などの翻訳の場合、業務を通して得た知識の応用が利きにくくなり、「その業界の仕事しかできない」とレッテルを貼られる可能性がある(他に移りにくくなる?)

があります。本来エントリーレベルの仕事でも、実務経験者が候補にいればそちらが選ばれてしまい、未経験者が採用されずフルタイムの仕事にも参入できない可能性が充分あります(私もそうでした)。そういった場合、もっと地道な努力が必要になります。

フルタイムの仕事が無い場合にできる事とは?

  1. パートタイム(例:週に1回4時間)で仕事をする(業務量が多いほどいい)
  2. 単発でも翻訳の仕事などを知り合いから紹介してもらう
  3. ボランティア通訳・翻訳で経験を積む

3のボランティアはあまり深入りしない方がいい方法ですが、経験値を積む上では全くお勧めできない、という訳ではありません。

例えば無料雑誌などでのボランティア翻訳として自分の名前を「翻訳者」として載せてもらう、というのは一回はやっておくと色々便利です。自分の名前が出ているものが一応公に発表されていることになります。

それがちゃんとしたアウトプットになっていれば、自分のスキルを示す指標として活用することができます。

私の場合、インドでフルタイムの仕事を受ける際の事前の面接で、翻訳例としてこれくらいのクオリティを出せる、という説得材料として提出しました。その結果、これなら大丈夫と思ってもらえたので役に立ちました。

しかし、こういったパートでの仕事の難点は、

  1. 直接通訳・翻訳の経験をつめないものもある
  2. カレンダー上の時間は過ぎるが、業務経験の濃度が薄い
  3. フルタイムでの仕事ではないので収入が少ない

などです。そこを考えると、私は4年で今のポジション・スキルまで来たので、海外で実戦経験を積みながら最短距離で通訳スキルを上げるという選択肢はあながち間違っていなかったのだなぁと感じます。

続いて、次回はボランティアからいきなり海外就職で秘書経験を積んでいる人の話を紹介したいと思います。日本国内の地方在住での就職活動、業務経験なし等をどのように克服したか、などを紹介します。