photo by Jinx!
前回の記事で通訳と翻訳の違いを以下のように紹介しました。
■通訳(Interpretation)・・・人の話す言葉(会議・スピーチ・雑談など)が対象
■翻訳(Translation)・・・人の書いたテキスト(記事・仕様書・メールなど)が対象
もう少しこの2つの違いを掘り下げたいと思います。(※私はフリーでの経験が無いので、インハウス(会社で採用され、基本的にその会社の仕事のみ対応する人)の考え方を基準としていますのでご了承下さい。)
通訳とはどんな仕事か?
通訳には誰かが話した内容を瞬時に、かつ正確に訳出する責任が生じます。
インハウスの場合、会議があるなら事前に関連メールや資料などを読んでおき議論のトピックに事前に精通しておく、それにあわせて用語集や良く使われるフレーズなどをリストにしてく、といった準備をしておくのが基本です(時間が無くてできない事もありますが)。
「えっと・・・知らない単語があるからちょっと待って下さい。辞書引きます。」というのは基本的に許されません・・・というと、「そんなの無理ー」と思われる方もいるかもしれません。
勿論私も正しい用語での正しい通訳をできるように努力していますが、100%常にできるわけではありません。
用語を知らない時の誤魔化し方とは?
正しい訳語が分からない場合、通訳中に私がよくやる方法としては、「その時自分ができる最善の訳をする」です。例えば、「看護士」に対する適切な訳が分からなかった場合、臨時的に「医者をサポートする人」という抽象的な訳を使います。
このように代用の訳を使うと、その通訳内容を聞いてスピーカーが、「看護士は・・・」と正しい用語を使いつつ次の発言をしてくれることが結構あります。
その場合は、ありがたくその用語をあたかも前から知っていたかのようにその次の通訳から使うのです。ちなみに、このように通訳をしながら勉強するというのは、(無いのがベストですが)よくある話ではないかと思います。
通訳の場では、録音でもしていない限りは発言内容は残りませんので、そのまま何事も無かったかのように流れていってしまいます。
通訳に求められる性格・性質とは?
通訳をする上では通訳者が自分自身のペースで通訳を行うのではなく、逆に周りの人の会話の流れやペースに乗る必要があります。
しかし、社内の会議では、スピーカー以外の周囲の人の話し声、紙の資料をめくる音、コーヒーを持ってきてくれる係が置く食器がカタカタいう音、携帯の音など、様々な妨害が通訳に降りかかってきます。
それらを全て跳ね除けてスムーズに議事進行ができるようにする、会議の進行を通訳が妨げないようにするのは至難の業です。これを実現するためには、通訳としてのスキルのみならず以下の能力が求められます。
- 頭の回転の速さ
- 常に周囲や人間の観察をする癖
- 文脈や人間関係などから勘を働かせ、様々なことを正しく察する力
- 臨機応変に対応できる柔軟性
- 通訳をする上での脳のスタミナ(とても疲れます)
- 度胸の良さ
ざっと列挙しましたが、現場でこれらの能力を発揮するのは大変です。私自身もどれだけできているか、正直なところはわかりませんが、日々ベストを尽くす必要があります。
翻訳とはどんな仕事か?
翻訳では大体「締切」がありますが、翻訳者は締め切りさえ守れば、一般的には納品まで自分の好きなペースで働くことが可能です。
通訳と違って原文をもらってからでも辞書を引く、表現をこねくり回してじっくり考える、またはグーグルなどの検索エンジンを駆使して調べ上げて訳のクオリティを上げる、といったことが出来ます。
逆に言うと仕事の結果が声ではなく文字で出るため、下手をすると誤った訳文が未来永劫残る可能性もあります。
仕様書などの理解について取引先と食い違いが発生した際に、原因が「翻訳ミス」だったとしたら・・・背筋がぞっとします。こういったプレッシャーは常に翻訳中にかかっています。
翻訳に求められる性格・性質とは?
翻訳対応をする場合、オリジナルの文書作成者が皆分かりやすい文章を書いてくれるかというと、そうではありません。
主語や目的語が抜けているのは良くある話で、誤字脱字やタイプミスなどがあるままで送られてくることもあります。その確認でメールを出したら返事が来るのに2日かかる、といったこともあります。翻訳には以下の能力が求められます。
- PCの前で淡々と仕事をし続ける持続力
- リサーチ力
- 読解力(正しく読む)
- 洞察力・推測力(背景・意図を思い込みではなく理解する)
- 判断力(文脈によって、語彙の使用も違ってくる為)
また、訳出する際には、読み手にとって分かりやすく読みやすい翻訳を目指さなければならないため、訳出言語における文章力も必要です。
インハウスで翻訳をする上で求められる力とは?
インハウスだと、次から次へと翻訳依頼が来て優先順位が変わることがあります。頭の切り替えがさっとできない人には非常にストレスになりますが、良くあるケースなのでそういった割り切りが必要です。
また、「とりあえず英語になっていればいいから」「内容が分かればいいから」という良く分かるような分からないような指示をする方もいます。
こういう場合は、「スピード最優先で、なるはやでよろしく(でもちゃんと翻訳してね)」ということだと理解して、対応しています。
駆け出しは通訳・翻訳どちらからやればいいか?
通訳は料理に例えると、突然の来客時に冷蔵庫の有り合わせの材料でいかに美味しい料理を作るか、という感じです。
一方翻訳は、多少時間があるので状況に応じて買い出しやクックパッドを参照することも可能な中で、できるだけ美味しい料理を作る(でも晩御飯の時間まで)という感じです。まずは翻訳の量をこなすのが良いと思います。
ただ、通訳学校の講師から、「語学力があってナンボだから、とりあえず語学力を上げてください。」と身も蓋も無い事をいわれたことがあります・・・が100%正しいと思います。
料理が下手な人はクックパッド見ても失敗する可能性あるので、基本の調理スキルが大事です。同様に、通訳・翻訳においても、まずは基礎の語学力を身につけることが重要です。
しばらく仕事をして慣れてきてからの話になりますが、通訳を100%、翻訳を100%などと偏らせてしまうよりも、両方対応するほうが良いと思います。
それぞれで求められる内容が違うことを踏まえた上で、上記の料理の例で考えても、両方のパターンをこなす中でスピード・質が上がると個人的には感じます。
通訳を大量にする中で勘所が養われるのと同時に、翻訳をしながら丁寧に訳出する、その両方をする中で双方に良い影響が出てくると感じます。
これも通訳学校の先生の話ですが、通訳を本業で仕事にしたい場合は、「通訳7:翻訳3」位が理想と仰っていましたが、私もそう思います。次回の記事では、通訳学校でどういった授業をしているのか、その内容に関して説明します。