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通訳業界でよく聞く「専属通訳」という言葉。一番有名なのはサイマルの専属契約ですが、そもそも専属とは何なのでしょうか?ものすごくざっくり言ってしまえば、ある人とエージェントが一定期間の契約を結び、その契約期間はその会社以外の仕事を請けない分、エージェントが最低限の給料を保証する、というのが大枠となります。「随時稼動のため副業禁止の給料保障付き有期契約社員」という感じでしょうか。以下にそのメリット・デメリットをまとめます。

通訳者が専属契約を結ぶメリット

最低限の給料が保障されており、仕事が無くても給料をもらえる

例えば、東日本大震災などの災害時に外国人が日本に来たがらず、通訳への需要そのものが数ヶ月間に渡って途絶えた事があったようです。しかし、そんな時でも専属契約であれば最低年収は保障され、それに基づいた給料は発生したようです。ちなみに稼働が多い場合はその最低年収を上回るので、その場合はその分プラスにもなるそうです。

フリーランスの場合、個人で安定して仕事を確保できるか分からないという不確定要素があるが、専属契約の場合、エージェントが確実に仕事をくれる

「~の専属通訳の~さん」というブランドをもらえる

会社によっては専属で何年もしている超Sクラスの先輩通訳と組んで仕事ができるので、勉強になる(比較されてある意味で公開処刑になることもあるかもしれませんが・・・)

専属契約を通訳者が結ぶデメリット

勤務日を選べなさそう(OFFにして欲しいという指定は可能ですが、案件と稼働状況によっては必ずしもその要求が通るとは限らない)

専属契約でも社内通訳案件での仕事なら、普通は毎日出社になると思います。

①が原因で、OFFだと思っていたら大学の飲み会ばりの「今からやるから来いよ」で呼び出される事がありそう

翌日の案件の準備をしようとしていたら呼び出され、プランが狂う事もあるのでは。

仕事を選べなさそう

中にはある程度、通訳者&業界による分業にしているところもありそうですが、エージェントによっては完璧なジェネラリスト養成を狙っているところがあります。

といった感じです。何かを犠牲にしないと何かを得られないのは世の常です。「仕事ができる人」の中には、ライフ・ワークバランスなんていう概念をガン無視で仕事に打ち込む人もいます。取れる案件は「ありがとうございます!」と言って全部取り、スケジュールを埋めまくって仕事をしまくる、そんなギラギラした野心と向上心に燃える人からすると、「今からやるから来いよ」というのが発生するのは、ある意味でありがたい環境かもしれません(単に仕事が好き、というのもあるかもしれませんが)。

今度は、逆にこの専属契約をエージェント視点で見てみたいと思います。エージェントのデメリットは「稼動が無くても定額支払い」です(経営的にみると、年間の支払いが可視化できるため管理はしやすいのではないかと思いますが)。しかしそれを上回るメリットがエージェント側にもあり、従って専属契約を採用しているのではないかと思われます。

エージェントにとっての専属契約のメリットとは?

専属契約というのは聞こえはいいですが、結局大枠としてはエージェントが「お金を払って(通訳の)時間をもらう契約をして、その時間をクライアントに高く売る利ざや商売」に変わりありません。エージェントにとっての専属契約のメリットは以下のようになります。

案件に対して、しっかりと能力を把握している人を安定して派遣できるように囲い込みたい
専属なら前日夕方に「明日案件が入ったからお願いします」と言っても、追加料金などが多分発生しないし頼みやすい
色々あっても、「イヤなら契約するな」という伝家の宝刀が使える

これは通訳だけに言えることではないと思うのですが、仕事というのは、「やりたい人は多くいるけど、やりたい人の多くはできない」「できる人は少ないけど、できる人の多くはやりたくない」という性質を持っており、その香ばしいミックスをいかにして回避して品質保証&安定供給するか、にかかっています。そのため、フリーランスが比較的多い通訳業界でも、専属契約が生き残っているのだろうなぁ、と思います。

社内通訳案件の専属契約に関する印象

エージェント業は、上記のような利ざやビジネスです(それ自体に問題は無いと私は認識しています)。そして社内通訳案件の価格(時給いくら)は、公に出ている求人を見れば一目瞭然です。従って、これは私の印象ですが、社内通訳案件の専属通訳の場合、時給1700円くらいに相当する実力を持つ人に時給1480円くらいで契約してコンスタントに業務を提供する事を保証しつつ、売り先には時給2050円くらいでチャージなんだろうなぁというお金の構造を想像しています。

なので、「今年は◯◯エージェントから社内通訳の仕事をもらっていたけど、専属契約をしたら給料が下がった!」という事がきっとあるのだろうなぁと思っています。一方で、この社内通訳レベルの案件での専属契約で売り上げを伸ばすのは少し難しいだろうというのが個人的印象です。理由は以下の通りです。

エージェントからすると、紹介者一人当たりの利ざやが少ない

<月当たりに動くお金の計算>
トップクラス通訳だと1日10万円 x 週3.5日稼動 x 4週 = 140万円
社内通訳だと2000円 x 8時間 x 5日 x 4週 = 32万円

比較的経験が少ない人を活用するので、通訳・翻訳の品質保障が難しい

専属契約をしても、契約終了時にもっと良い案件がマーケットにあれば移ってしまうリスク

では、なぜ面倒な社内通訳案件で専属契約をするか?という理由を推測すると、以下の通りです。

社内通訳案件の対応可能な人の数はフリーランスと比べると多く、裾野は広いので数で勝負
通訳業界の高齢化に対応して、次世代を担う若い人とのつながりを確保しておきたい
若くて仕事をこなせる人(安いけどソコソコの人材)を一定数確保しておきたい
若い人にチャンスをあげたいというエージェント側の善意

ではないかと思っています。結構、④は大事な印象です。

まとめ

上を目指す人の場合、エージェントの中抜きを「損」と定義しなければ、専属というブランドを手にしたり、雲の上のレベルの人と一緒に仕事ができるというのは悪い話ではないと思います。「専属」も契約内容によって様々っぽいですが、長い間生き残ってきたシステムです。声がかかるかどうかがポイントではありますが、かかったら少しやってみてもいいのではないでしょうか。

次回の記事では、最近起きたニュースや人から聞いた話などを基に、「通訳・翻訳の未来」を私なりに考えてみたいと思います。

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矢野 文宏 (fumihiro yano)

現在は在シンガポール日系メーカーで通訳・翻訳として勤務。以前に印度で2年翻訳、1年半マレーシアで通翻経験もあり。通訳・翻訳者になる第一歩をサポートするやのなのね通翻研究所でSkype相談随時受付中! 他、海外の生活や旅行を書いた電子書籍を6冊出版。日々の海外での生活はブログにて紹介。 ツイッター@yanonanone
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