photo by Seth Glickman
通訳学校の講師は、皆現役の通訳者であることが多いです。「どうやって通訳になったのですか?」と質問をすると、皆さんそれぞれ違う答えが返ってきます。
業務中に英語を日常的に使用する中でいつしか通訳を仕事にしたいと思ったという方もいれば、アメリカの大学院で勉強して数年仕事をして日本に戻ってきた方もいます。
また、帰国子女でバイリンガルなため英語ネイティブの様な発音で通訳をされる方(帰国子女とはいえ、その裏には勿論相当の努力があるからバイリンガルなのですが)もいたりと、皆人それぞれです。
そういった「キラキラした」感じの方々の話は、聞く分には面白いですが「普通の通訳になりたい日本人」には縁の無い世界なので、自分への適用という点では正直もの足りない面がでてしまうのではないか、と感じています。
むしろ、実務経験ゼロで英語に関わる仕事ならなんでもして、少しずつのし上がってきた、というハングリー精神旺盛な通訳の話の方が、為になる事が多そうな印象です。
そういった方がどのようにして実際にレベルを上げてきたかというと、通訳学校で一生懸命勉強したという方がほとんどです。では通訳学校ではどんな勉強をしているかを以下にまとめます。
通訳学校で実践する訓練内容、講師が勧める訓練方法
リテンション&リプロダクション
聞いた文章の内容を、リテンション(短期記憶で保存する)して、その内容をそのまま言うという訓練です。記憶力と理解力が問われます。
リテンション&言い換え(パラフレーズ)
聞いた文章の内容を、リテンション(短期記憶などで保存する)して、同じ意味の別な表現に言い換える訓練です。記憶力と理解力、言い換えの際の表現力が問われます。リプロダクションの所で言語も変換すると通訳になります。
上記「リテンション&リプロダクション」および「リテンション&言い換え(パラフレーズ)」の訓練方法としては、ある程度の長さの日本文(または英文)を聞き、口頭で表現するという地味なやり方です。
通訳訓練初期には、メモなどを取らずに実践することが多いです。この2つの活動では(特に英語を聞く場合)「理解」することが大切です。
日本語のリスニングは、意識をしなくても日本人であれば自然と理解できますのでリプロダクションは比較的容易です。
しかし、英語になると「英語リスニング」というフィルターが一枚入ってしまいます。「単語・用語がわからない」「構文がわからない」「発音変化があり、聞き取れない」など、様々な要因が理解の妨げとなる可能性が高くなります。
ですので、「リテンションできない」というのは意外とその前の「理解」が原因だったりします(日本語から英語の通訳でも、社内用語や部門内の人にしか分からないトピックの内容を話されると、通訳不能になることは結構あります)。
シャドーイング
シャドーイングとは、オリジナル音声に対して「影(シャドー)」のように、聞いた内容を自分も声を出して言う訓練です。音声を聞いて内容をちゃんと理解し、耳から入る情報をほぼノータイムで声に出します。
リスニング力、スピーキング力、またイントネーション矯正などに効果があると思います。また、「聞きながらしゃべる」のにも慣れることができます。
サイトトランスレーション
原稿を見ながら同時通訳をする事を、サイトトランスレーション(通称サイトラ)と言います。
完全原稿が事前に手に入ってベタ訳(全訳)を作成する時間があればいいのですが、そうではなく実際のスピーチ直前などに話者の原稿を入手できたときに、このサイトラ対応をします。
原稿が手に入ったといっても、スピーカーが原稿のまま話してくれるかどうかも、本番にならないと分かりません。実際にスピーチなどが始まった際には聞こえている音声と原稿の内容を確認しながら、ある程度の意味の塊が聞こえた所から訳出していきます。
同時通訳者の手元の原稿では、スラッシュを入れたり難しい所に部分訳を記入したりして、半加工しています。
こういった場面を想定して自分で地道に訓練しておくことで、通訳の表現の引き出しが増えることにつながり、安定したパフォーマンスができる基礎になります。
演習(ノートの取り方、訳出における態度、デリバリーについて)
録音された会話やスピーチなどの音声データを再生して、実際に通訳をする活動です。
逐次通訳の練習の際には、ノートの取り方がどうか、ソース内容の理解がきちんとできているか、訳出はソースの内容をしっかりと反映したものになっているか、TPOにふさわしい訳になっているか、などを現役通訳の視点から見て判断します。
上記が、だいたいどこの通訳学校でもやっている訓練内容です。
結局大事なのは語学力(多くの場合英語力)
「普通の英語ができる日本人」にとって何よりも大事なのは基本の語学力向上(英語力)で、これが無いと話になりません。
通訳学校の目的はスキルやプロとしての姿勢を学ぶ所といった要素もありますが、多くの日本人学習者は、英語力向上に注力する事になってしまいます(そこは私も否定しないし大切な点だと思っています。また、今の自分にもまだまだ必要な点だという自覚もあります)。
通訳学校の中には、トレンド日米表現辞典(通称:トレンド)を教材として、そのまま丸暗記をさせて毎回テストをする学校もあります。
私も、通訳としての基礎の語彙力(団体などの正式名称など含む)や、最新の表現力を獲得する上ではとても効率の良い勉強方法だと思っています。
サイトラのような訓練が役に立つのは文法知識などがしっかりしており、構文理解ができる事が前提での通訳訓練です。もし文法理解が手薄だと感じる場合は、早めにこういったテキストを活用して対策をしましょう。
逆に言うと結局は日本語・英語の力がスタート時点からあれば、通訳スキルは仕事をしながら身につけるとしても、かなり即戦力で通訳として活躍できます。
しかし、多くの人はその土台が無いため苦労しながら語学力を上げて基礎を作る必要がある、というのが現実です。次の記事では、私の体験からどういった勉強方法が有益だったかをまとめます。