photo by U.S. Department of Agriculture

初めまして、私は矢野文宏と申します。インド・マレーシアでの通訳の仕事から得た経験をまとめた記事をほぼ1年前に英語ひろばにてアップしました。

その記事では、本気で通訳・翻訳業界で仕事をしたいのなら、海外で通訳・翻訳として(または秘書として)勤務をする選択肢は悪くない、という私の考えとその理由を書きました。

その後、縁あって当時の勤務先であるマレーシアの会社からシンガポールの日系メーカーに転職をすることとなり、あっという間に一年が経ちました。

現在では日本側で採用になった経験年数が私の数倍ある通訳の方や、フリーランスで仕事をされている方とも仕事をしたり、通訳を志す人にとっては憧れの「同時通訳ブース」で仕事をさせていただく機会に恵まれることもありました。

日々の業務では、主に上司が参加する戦略立案や方針決定における会議にて同時通訳をしています。この1年間は特に忙しく、月平均で7~8営業日は出張同行でシンガポール以外の国に滞在していました。

数年前の状況を考えてみると、自分でも信じられないような生活を送っています。

通訳・翻訳を仕事にする前の背景は?

通訳になることを志して教員を退職したのは2009年3月で、同年4月から通訳学校サイマルアカデミーで2年間勉強をしました。

この時点で私は通訳業界において「実務経験無し、TOEIC905」という条件からのスタートでした。英語が苦手な人からすれば、TOEICでスコアが900以上というと、英語がペラペラな人という印象を受けるかもしれません。

しかし、フィリピンで語学学校を運営しているサウスピークの記事では、「TOEIC900点に到達してやっと英語学習のスタートラインに立てたレベル」と評価されていますし、私もそう思います(英語ひろばでも「TOEICスコア800点台の英語レベルとは」という記事が掲載されています)。

当時は英字新聞を読む際には辞書を引きながらでないと詳細は分からず、BBCなどのニュースを聞いても知らない単語が沢山出てきて、「通訳する」にはほど遠い状況でした。

かつて、アルバイトで国際会議の設営サポート(机や通訳機器のレシーバーを並べる等、会議の裏方)をした際に、何度か実際に国際会議の場に立つ(文字通り立っているだけでしたが)機会がありましたが、同時通訳を聞いて「すごいなぁ」とただ感激していました。

私のように、「人の通訳を聞く」側から、「通訳をする」側になってみると、視点が全く変わります。基本的な用語一つとっても、その理解の仕方には大きな違いがあることに気がつきました。

世の中にはなんとなく誤って使用・認識されている用語がありますので、以下にその内容をまとめます。

そもそも普通の人は「通訳」と「翻訳」の違いを理解しているのか?

日々の業務を行う中で、かなりの数の人が「通訳」と「翻訳」の扱う対象の違いを理解していないことを痛感しています。

通訳(Interpretation)・・・人の話す言葉(会議・スピーチ・雑談など)が対象
翻訳(Translation)・・・人の書いたテキスト(記事・仕様書・メールなど)が対象

つまり、「先方から英文メールが来たので、転送しました。明日までに日本語に通訳してください。」「まぁ、会議の中で皆が言ったことを全部翻訳すると疲れるだろうから、要点だけで。」といった発言は上記の区分からすると誤用になりますが、結構多くの人がその違いを認識していません。

また、いわゆる「同時通訳」に関しても、同じようにこの用語の意味を知らないで使用している人が時々見受けられます。

同時通訳って、どんな通訳?

実際に業務を行っていると、時々「同時」の意味自体も誤って理解されていることがあり、まずはそこの整理をするために、通訳の種類やその違いから説明をすることもしばしばです。

通訳業界では、主に逐次通訳(Consecutive Interpretation)同時通訳(Simultaneous Interpretation)という、2つの区分けがあります。以下、Youtubeにある浅田真央さんの会見の様子から、その違いを確認してみましょう。

■1分位~ 英→日のウィスパリング(通訳内容を耳元でささやく)での同時通訳(通訳の高松さん→浅田さん)
■3分25秒~ 浅田さんの発言
■4分15秒~ 通訳の逐次通訳による訳出

この動画を見て分かるように、ほぼリアルタイムで訳出するのが同時通訳一度発言内容を全て聞いて、発言が終わった後に訳を言う形を逐次通訳といいます。

この2つを混同して「同時通訳」と言われる場面に遭遇する事も時々あります。参考までにもう一つ動画を紹介します。

同時通訳が実際にどう聞こえるか、興味があるかたはこちらのYoutubeの動画を視聴していただくと、プロの同時通訳を聞くことができます。イヤホンを使用すると、右耳から日本語が、左耳から英語が聞こえます。

どうやって通訳・翻訳を仕事にするための勉強をした?

数年前までは、私も上記のようなカテゴリ分けがある事を知りませんでした。

しかし、今では日々業務をこなしています。TOEIC900から始めてどうやって業務経験を得て、同時通訳ができるレベルになったのか?何をすればいいのか?という点に関して、これから連載でまとめていきたいと思います。

次回は、通訳と翻訳の違いと必要とされるスキルについて、説明していきたいと思います。