Google翻訳で、矢野さんも仕事がなくなるかもしれませんね

という発言をたまに受けることがありますが、もしかするとそうかもしれませんし、そうではないかもしれません。というわけで、通訳・翻訳市場に影響する事柄や関連するニュース、傾向、人から聞いた話を以下にまとめてみました。

機械による翻訳・通訳が確実に普及している

機械翻訳で一番有名なのはGoogleです。

大変です。Google様が「指さし会話シリーズ」をぶっ殺しました!」という記事にあるように、GoogleのサービスであるGoogle translationの精度は年々上がってきており、指差し会話シリーズのような印刷物、レベルの低い内容しか対応できない通訳だと、仕事が減る(または無くなる)事は間違いないと思われます。

以前BBCのニュースを聞いていた所、ドイツで海外留学生向けに翻訳機を導入した大学が取り上げられていました。この翻訳機は授業の内容をドイツ語から他の言語に同時翻訳し、随時Webにアップして閲覧できるようにするもので、将来的にはドイツ全土に横展開したいそうです。

実際には、講義をしている教授の声をマイクで拾って音声認識ソフトで書き起こすのですが、その精度は極めて高いらしいです。

一方で、音声認識ソフトで書き起こしたものにかける機械翻訳の精度はまだまだ甘くミスが出るし、動詞が最後に来るなど、ドイツ語の構造がさらに翻訳を困難にしているようです。しかし、講義の内容は一応追いかけられるようになるだろう、とその大学の教授がコメントしていました。

言語的に似通っているヨーロッパ内でもまだ難しい面があるようですが、Skypeの同時通訳機能もあります。これから精度が下がる要素は無く上がるのみなので、現役通訳としては正直、怖い面もあります。

高いレベルの人は高齢化しているが、後進が育ちにくい環境になっている

以前、ある通訳派遣エージェントの方と、「需給バランスと高齢化はかなり密接なつながりがある」という話をした事があります。

いずれ高齢の通訳は引退するのでこれから先、「機械翻訳 」+ 「英語ができる人」の増加につき、エントリーレベルの通訳・翻訳需要が減る事が予想されます。そうなると、後進の通訳・翻訳が育ちにくくなります

しかし、今後10年、20年経ってトップクラスの通訳・翻訳が引退しても、日本語⇔英語の機械翻訳の精度が上がっていない可能性も考えられます。つまり、機械では信頼性に欠けるため、人間の通訳が必要となります

結局、通訳は意外とその希少価値を保つことが出来るのではないでしょうか。また、その通訳派遣エージェントの方は、通訳の希少価値が保てる理由として情報漏えいリスクを挙げていました。

そのリスクとは、Google Translationに代表されるWebベースの翻訳サービスにおいて、素材のテキストや音声をどう使われるかわからない点です。

ちなみに、「機械翻訳した内容がダダ漏れになるクラウドサービスが登場した件」という記事も以前出ていましたが、こういった点はサービスを利用する上で発生するリスクになります。

中期では、通訳・翻訳の雇用は伸びる?

アメリカで2019年まで雇用が伸びる14職種」という記事があります。14職種の中で、最も雇用人口の増加が予想されるサービスは「翻訳・通訳」でした。2014年は雇用人口3万4431人であるのが、2019年には1万2401人増の4万6832人になると予想されています。

アメリカの話なので日本とは別かもしれませんが、通訳をしているものとしては、どのレベルの案件で、給料がどの位なのかが気になる点です。

安い簡単な仕事だけが増えても、自分にはあまりプラス材料という印象はありません。もしかすると、機械翻訳したものをチェック・修正するという仕事だったりするかもしれません。

英・日共にノンネイティブな通訳・翻訳者の市場参加

一昔前は、日⇔英はどちらかを母語とする人が通訳・翻訳をすることがほとんどだったと思いますが、最近ではそれ以外の人もプロとして稼動しています。

インドでは、IT企業に勤める日本語検定3級のインド人が、Google翻訳を使いながら月に4-5万円の給料で仕事をしていました。

もちろん慣れも必要になるので簡単には育ちませんが、人を選んで教育すれば、ソフトウェアの仕様書や単体テスト、用件定義などで日英のみに限られますが(英日はやはり、ビジネス使用は厳しい)、エンジニアが内容を理解して仕事をするのに充分な翻訳を訳出できます。

マレーシアで勤務をしていた際に聞いた話ですが、同業他社でもプロジェクト管理やコーディネートのために採用した日本語専攻の大学生に、翻訳や日本との通訳をさせ、社内に通訳・翻訳専門の日本人を置いていない会社があるそうです。

ただ、「文法的に正しいか、ビジネスの場に適した訳出か、用語の選択に問題がないか」などの面で見ていくと、完璧でないところもあります。ラインの引き方次第で、依頼して問題ないレベルにもなりえます。

まとめ

以上に述べた、通訳・翻訳を取り巻く現状を以下のようにまとめました。

日本人の英語レベル全体が上がっていたり、ノンネイティブの市場参入もあり、エントリーレベルでのプレーヤーは増加傾向。

通訳・翻訳案件数はアメリカにおいて中期で増加することが予想されるものの、業界全体を長期的視野で見てみると、機械翻訳のレベル向上により減少傾向の見込み(機械翻訳のチェッカーなどは確実に増加が見込まれるが、給料としてはおそらく安い)。

①と②のバランスがどちらに傾くか、が焦点。もし通訳・翻訳者の供給が過剰な場合、裾野が値崩れする可能性があり、その際に同時通訳など高付加価値市場にどれだけ影響があるかが注目(以前と比較すると同時通訳者の給料も下がっており、どこで歯止めがかかるかが焦点)。

通訳高齢化による高スキル通訳者数の減少とウイスパリング・同時通訳など高レベルサービスへの需要とのもみ合いがどう影響するか。

ちなみに知り合いのデザイナーは、機械翻訳が精度を上げている通訳・翻訳業界の現状を「イラストレーターやフォトショップなどが広まった結果、焼け野原になったデザイン業界の20年前に似ている」と言っていました。

この予想がどうなるか、楽しみでもありますが怖くもあります。