「音声変化」をマスターすれば、リスニング力は格段に上がります。
みなさんは「Thank you.」という毎日のように聞くフレーズでも、KとYが繋がって「キュ」という音が生まれている、つまり音声変化が起こっていることを知っていましたか?
ネイティブと話していると「速すぎて聞き取れなかった…」と感じること、ありますよね。でもリスニングが苦手なのは、スピードのせいではなく、音声変化のルールを知らないことが原因かもしれません。
そこで大学で音声学を学んだ私Kyokoが、初心者にも分かりやすいよう「これだけ知っていれば安心」という音声変化のルールをお教えします!音声変化をマスターするのにオススメの教材も紹介していきますよ。
英語の音声変化とは?
英語ネイティブが自然なスピードで話したときに起こる、発音の変化
例えば「Nice to meet you.」は「ミート ユー」ではなく「ミーチュー」、「Not at all.」は「ノット アット オール」ではなく「ナラロー」というふうに聞こえますよね。
つまりどんな音が隣り合っているかによって、2つの音が繋がって1つになったり、ある音が完全に消えてしまったり、というのが音声変化です。
ちなみにネイティブが自然に話すと I am → I'm、I have → I've となりますが、これらは省略形として存在しているので、ここでは音声変化として扱いません。
この記事では、学校で教わらなかった「ネイティブが自然に使っている、スペルに起こせない音の変化」を紹介します。
そもそも音声変化はなぜ起こるの?
- 発音しやすいから
- 時間の短縮になるから
日本語でも「~です(desu)」というとき、最後のUはほぼ発音されません。また数字の「七(しち)」は「ひち」、「水族館(すいぞくかん)」は「すいぞっかん」と発音してしまっていませんか?
私たちが気づいていないだけで、実は日本語でも音声変化は起こっているんです。
音声変化が分かれば何に役立つの?
リスニング力アップ
リスニングには「音声知覚」と「意味理解」の2つのステージがあるとされています。
TOEICのリスニング問題を解いているときも、ネイティブと会話しているときも、この2つのステージの両方ができていないと「相手の意図がよく分かった」とはなりません。
- 音声知覚:耳に入ってきた英文を、正しく単語に分類できる
- 意味理解:文章全体の意味が理解できる(イメージが湧く/日本語に訳せる)
音声知覚に必要なのは「ひとつひとつの子音や母音を判別する力、音声変化の知識」など、そして意味理解に必要なのは「語彙力、文法知識、素早く情報を処理する力」などです。
音声変化は、一定の条件がそろったときに起こります。その条件(ルール)を知らなければ、英文を100回聞いても、正しく単語に分類することは難しいのです。
先ほどの「Not at all.」も「ノット アット オール」と発音されると思いこんでいたとしますよね。そうすると「ナラロー」がまさか「Not at all.」だとは分かりっこないんです。
つまりひとつひとつの子音や母音、そして音声変化までマスターすれば、今まで知覚できなかった英語が聞こえてくる、つまり「音声知覚」ができるようになります。
これに加えて単語や文法を学習すれば、リスニング力全体がアップするというわけです。
ネイティブらしい発音に近づく
音声変化はネイティブが自然なスピードで話したときに起こるもの。つまり音声変化をマスターして話すことができれば、ネイティブらしい発音に近づきます。少しこなれた感が出るという感じですかね。
ですが音声変化を使いこなすことは、別に必須ではありません。音声変化のルールはアメリカ英語とイギリス英語で異なるし、なにより音声変化なしで話しても間違いではないからです。
まずはひとつひとつの母音や子音を正しく使えるようになるのが絶対に優先です。そのうえで、ある程度のスピードで話すなら音声変化も身につけたほうが不自然さはなくなるでしょう。
3種類の音声変化
それでは音声変化のルールを説明します。色んな分け方があるのですが、今回は分かりやすく、
- リンキング(連結/リエゾン)
- リダクション(脱落)
- フラッピング(フラップT)
に分けました。
リンキング(連結/リエゾン)
1つ目の単語の「最後の音」と2つ目の単語の「最初の音」が繋がること
ちなみに日本では「リエゾン」と呼ばれることもありますが、これはフランス語にある音声変化が由来とのこと。英語の音声変化については「リンキング(連結)」と呼ぶほうが無難です。
子音+母音
1つ目の単語の「最後の子音」と2つ目の単語の「最初の母音」が連結。
どんな組み合わせにも起こりやすい変化です。ただ2つの音が繋がるとはいえ、両方の音がほぼ保たれるので、聞き取りは難しくありません。
- I'm sorry, but I can't make it today.
「メイキッ」のように聞こえます - Your book is on top of the cabinet.
「タッパブ」のように聞こえます - Do you want to chill out at my place tomorrow?
「チラウト」のように聞こえます - Please wait till your name is called.
「ネイミズ」のように聞こえます - Don’t turn away from the problems.
「ターナウェイ」のように聞こえます - I want to go somewhere far away.
「ファーラウェイ」のように聞こえます
子音+子音
1つ目の単語の「最後の子音」と2つ目の単語の「最初の子音(とくにY)」が連結。2つ目の単語が you のことが多い、つまりよく耳にするので要チェックです。
ちなみに「同化」と呼ばれることもありますが、基本的にはリンキングの一種です。もとの発音からの変化が少し大きいので、難易度は高め。2つの音が繋がって別の音が生まれるイメージです。
1つ目の単語が破裂音で終わる場合が多い。詳しくはリンキングの記事へ
- Nice to meet you.
「ミーチュー」のように聞こえます - Would you open the window, please?
「ウッジュー」のように聞こえます - Do you have a minute? I need your help.
「二ージョア」のように聞こえます - Thank you for coming to our wedding.
「センキュー」のように聞こえます - Don't always touch your hair.
「タッチョアー」のように聞こえます
リンキングの例がもっと見たい!という方はこちらの記事もどうぞ。
リダクション(脱落)
前後の音に影響されて、特定の音が弱くなる(聞こえなくなる)こと
T/D/Gなどの破裂音
子音+子音でよく起こる変化。1つ目の単語の「最後の子音」が破裂音(T、D、P、B、K、G)のとき、これらの音が消えます。
- Don't be upset, I'm just kidding.
「ジャスッキディング」のように聞こえます - Please take care of yourself.
「テイッケアー」のように聞こえます - I think she is a good teacher.
「グッティーチャー」のように聞こえます - That's a nice cupboard. Where did you get it?
「カッボード」のように聞こえます - Good job, guys.
「グッジョブ」のように聞こえます
「脱落」とはいいますが、完全に発音しないわけではなく、音を飲み込む(「ッ」のように喉を閉める)イメージです。息を貯めることで、次の子音が強く聞こえることもあります。
ただこの「脱落」には諸説あります。なぜなら語尾の破裂音(とくにTやD)は、もともとほとんど発音されないため。つまり後ろの音に影響されたから脱落しているわけではないという考え方もあります。
先ほどの「リンキング」で紹介した「Nice to meet you.」でも、もともと「meet」のTは発音されないことがあるため、「ミーチュー」ではなく「ミーッ ユー」と言う人もいるんですよ。
前置詞や接続詞などの機能語
「but」や「and」などの機能語にリダクションが起こります。
英語には「内容語」と「機能語」というものがあります。
- 内容語:名詞、動詞、形容詞、副詞など
- 機能語:代名詞、接続詞、冠詞、前置詞など
正しい文章を作るにはどちらも欠かせません。違いは、意図を伝えるうえで中心となるのが内容語、それらの内容語を文法的・意味的に正しく繋いでいくのが機能語です。例えば、
例えば、
It was raining yesterday, but today is such a beautiful day!
この文章を内容語と機能語に分けると、こうなります。
- 内容語:raining, yesterday, today, such, beautiful, day
- 機能語:It, was, but, is, a
もしこの文章で接続詞が抜けていても「but」が入ると推測できますが、「raining」が抜けていたら推測は無理ですよね。「rainy」かもしれないし「snowing」かもしれません。
つまり内容語は話し手の意図を伝えるうえで欠かせないのに対し、機能語は推測が可能。そのため発音についても弱くなったり一部の音が消こえなくなったりします。リダクションが起こるということです(=弱化)。
- I’ve been pretty busy lately.
「アイブベン」のように聞こえます - Are you ready for tomorrow's company meeting?
「レディファ」のように聞こえます - His idea is great, but not too practical.
「バッ」のように聞こえます - Could I have fish and chips, please?
「フィッシュエンチップス」のように聞こえます
ちなみにこれらは文章全体にメリハリをつける役割も担っています。強調したい内容語を強めに、そこまで重要でない機能語は弱めに発音できるよう練習してみましょう。
H(him/herなど)
こちらは上級者でも聞き取れないことが多い音声変化。機能語が脱落する一例ではあるのですが、少し特殊なので項目を分けて紹介します。
his、him、her など、よく聞く代名詞の「最初のH」が脱落します。ちなみに文の最初の His や Her は、しっかり発音されますよ。
- Where is she? - She should be in her room.
「インナー」のように聞こえます - All the team members like him a lot.
「ライキム」のように聞こえます
これらの英文ではHが抜けたあとで、最初に紹介したリンキング(子音+母音)も起こっていますね。
リダクションの例がもっと見たい!という方はこちらの記事もどうぞ。
フラッピング(フラップT)
下記の条件が満たされたとき「T」の音が「LとDの間のような音」に変わること
- Tが「母音と母音」もしくは「Rと母音」に挟まれている
- Tの直前の母音にストレスがある(1単語内でフラッピングが起こるとき)
- I went to my friend’s birthday party yesterday.
「パーリー」のように聞こえます - Can you give me some water?
「ワーラー」のように聞こえます - It seems like you’ve got a lot of things to do today.
「アラロブ」のように聞こえます - I don't think you should talk about it right now.
「アバウリッ」のように聞こえます - I didn't study at all when I was a student.
「アロー」のように聞こえます
ただ先ほど書いたように、Tが語尾に来ると、単独で発音しても聞こえないことがよくあります。なので「At all」も「アロー」ではなく「アッ オール」と発音する人もいますよ。
これはアメリカ英語を話す人同士を比べても、個人によって異なります。
ちなみにこのフラップT、イギリス英語では起こりません。イギリス人は T を強く発音するといわれるのもこのためですね。
ですがイギリス英語に近いといわれるオーストラリア英語では、このフラップTが起こるんですよ。不思議ですよね。音声変化も実は奥が深いようです…!
フラップTの例がもっと見たい!という方はこちらの記事もどうぞ。
応用編(色んな音声変化が入った英文)
おまけで応用編。今まで紹介した3つの音声変化が入り混じっている文章を紹介します。
A:When is his birthday?
B:Tomorrow. I have to go get a gift.
どこでどんな音声変化が起こるか、今までの説明をもとにぜひ考えてみてください。
...正解はこちら。
ネイティブがナチュラルスピードで話せば、少なくとも音声変化が7回起こります(アメリカ英語の場合)。聞こえ方は、
「ウェ二ズィズバースディー?」
「トゥモロー。ィハフタゴウゲラギフッ」
のような感じでしょうか。2文目の機能語についてですが、「I」はほぼ消えて、かろうじて「ィ」のように聞こえます。また「to」は「タ」のようになります。もうひとつ見てみましょう。
A:We gotta cancel our trip.
B:What are you talking about?
こちらでは少なくとも9つの音声変化が起こりますよ。
聞こえ方は、
「ウィーゴラキャンセラワトゥリッ」
「ウォラーヤトーキナバウッ?」
という感じ。便宜上カタカナにしていますが、再現するのもなかなか難しいですね(笑)。
ちなみに「are」も機能語なのですが、単独で発音するなら発音は/ɑːr/。口を大きく縦に開いて「ア」と言ってから舌を後ろに引く感じです。「park」と同じですね。
ですが文章のなかに入ると、ほぼ100%の確率で/əːr/になります。舌を後ろに引いてから声を出します。「bird」と同じです。
「ニック式英会話」というYouTubeチャンネルでは、このように色んな種類の音声変化が起こっている英文がいっぱい紹介されていますよ。「この英語、聴こえますか?」とタイトルがついたものを見てみてくださいね。日本語の説明も分かりやすくてオススメです。
音声変化に慣れるための学習法
- ディクテーション
- リピーティング
ディクテーションは「聞いた音声を、一字一句、文字に書き起こす」学習法。聞き取れた単語からまわりを固めていけば、文脈をヒントに「繋がった音」や「消えた音」がどの単語の一部だったのか見えてきます。
リピーティングは「音声を聞き、一旦止めて、マネしてみる」学習法。耳に残った音に頑張って近づけてみることで、自分自身の発音練習にもなります。
ディクテーションでもリピーティングでも、
- まずスクリプトを見ずに挑戦する
- スクリプトを見ながら再度音声を流す
- どこでどんな音声変化が起こっているか確認
- 音声変化を意識しながら自分でも発音する
- 録音して、お手本と比較する
という手順を繰り返せば、最も効果的だと思います。これから紹介する教材でも、例えそのような指示がなくても自分でリピーティングやディクテーションに挑戦してみましょう!
音声変化にオススメの教材
モゴモゴバスター
「モゴモゴ聞こえる英語をやっつけよう」という感じでしょうか。名前からして面白そうですよね。
音声変化が起こった英語を「省エネ英語」と呼び、これを聞き取れるようになるための練習に特化できるサイトです。かなりスピードが速い音声が大量にありますよ。サンプルはこちら。
最初に約6,000円を支払うと全42レッスン(計6.5時間の音声)がずっと利用可能です。自分でも発音しながら毎日やりこめば、普通のネイティブの会話がゆっくり聞こえてくると思います。
プライムイングリッシュ
自然なスピードの英語を聞き取れて、自分でも発音することができ、さらに知っていても使えていないフレーズが使えるようになることを目指す教材。
CDでは 1.ゆっくりバージョンを聞く 2.それをマネしてみる 3.ナチュラルスピードを聞く という段階を踏めるので、今まで意識してこなかった発音変化に慣れることができます。
価格は29,800円(テキスト6冊+CD12枚)。サマー先生のYouTubeも必見です。日本語ペラペラのサマー先生が、音声変化が分かりやすく説明してくれていますよ。
イングリッシュセントラル
英語学習用の動画サイト。英語学習用といえど、有名人のインタビューを切り取ったものなどナチュラルな動画が多いので、音声変化がたくさん聞けます(こちらも口コミがあります)。
日本語と英語の字幕をそれぞれON/OFFできたり、単語の穴埋めクイズがあったり、自分の発音を機械が採点してくれたりと、音声変化のトレーニングにはぴったりです。
TED Talks
TEDとは、政治家やノーベル賞受賞者、ジャーナリストなど、色んな分野で活躍している人のプレゼンや講演会を無料で閲覧できるサイトです(口コミはこちら)。
ネイティブも非ネイティブもいますが、みんな大勢の人の前で説得力のある分かりやすく話しているので、リスニングの練習になるだけでなく、立ち振る舞いや話し方も参考にできますよ。
テレビやドラマを観る
お気に入りのドラマや映画を何度も見るのもオススメ。ドキュメンタリーやトークショーだと、さらにリアルな音声変化が聞けますよ。
まずは字幕なしで挑戦してみましょう。次に字幕を見ながら何度も再生してみることで「こう聞こえていたのは、この単語とこの単語が繋がったからだったのか」という発見があると思います!
まとめ:音声変化が分かればリスニングに役立つ!
ネイティブが自然なスピードで話すときに起こる音声変化。色んな分け方があるのですが、ここでは分かりやすく3つに分類しました。
- リンキング(連結/リエゾン)「chill out=チラウト」など
- リダクション(脱落)「good job=グッジョブ」など
- フラッピング(フラップT)「party=パーリー」など
そして実際の会話では、1文のなかで色んな音声変化が何度も起こっていることがよくあります。
音声変化に慣れるにはリピーティングやディクテーションがオススメと書きましたが、逆に音声変化の知識が少しでも頭に入っていると、リピーティングやディクテーションにとりかかりやすいとも言えます。
まずは今回紹介した音声変化のルールを頭に入れることから始めましょう。
そしてリピーティングやディクテーションでトレーニングを積めば、今まで聞き取れなかった英語がスッと耳に入ってくるようになり、リスニング力もぐっと伸びると思いますよ。