英語の音声変化「フラッピング/フラップT」について、分かりやすく説明します。
いきなりですが「うるさい!」という英語がカタカナで「シャラップ!」と表現されているのを見たことがありますか?実はこれ「フラップT」が起こっている典型的な例なんです。
フラップTは、ネイティブが自然なスピードで英語を話したときに起こる音声変化のひとつ。「音声変化ってなに...?」「音声変化は何に役立つの?」という方は、こちらの記事を読んでから、戻ってきてくださいね。
音声変化のなかでもフラップTは少し特殊です。名前にあるとおり「T」だけに起こる変化なので覚えるのは簡単、でも聞き取るのはかなり難しい、さらにイギリス英語にはない音声変化なのです。
この記事では、大学で音声学を学んだ私Kyokoが、フラッピング/フラップTが起こるルール、フラッピングの例一覧、そしてオススメの学習教材について書いていきます。
英語のフラッピング/フラップTとは?
フラップ(flap)という単語には「(鳥が)羽ばたく、(ヒラヒラしたものが)はためく」などの意味があります。まずはフラッピング/フラップTの定義を見てみましょう。
Tの音が、下記条件のもとで「LとDの間のような音」になる音声変化
- Tが「母音と母音」もしくは「Rと母音」に挟まれている
- Tの直前の母音にストレスがある(1単語内でフラッピングが起こるとき)
LとDの間のような音は、舌が口の天井を素早くはじいたときに出る音。なのでフラップTといわれるのですね。
ちなみに発音記号で書くと / ɾ / です。/ r / の左上が突き出していない感じですね。この / ɾ / が、フラップTの「LとDの間のような音」です(この記事では分かりやすくラ行で示しています)。
フラッピングはひとつの単語のなかのTでも起こるし、文章のなかで前後の単語に影響されて起こることもあります。文章だと少し分かりずらいので、実際の例を見てみましょう。
water:ウォーター → ウォーラー
Tが母音と母音に挟まれていて、かつTの直前の母音にストレスがある
例えば「hotel」という単語でも「T」は母音に挟まれていますよね。ですがストレスの位置が「hotél」なのでフラップTにはなりません。
母音に挟まれていて、かつTの前の母音にストレスがある。この2つの条件が満たされていないと、フラッピングは起こらないのです。
party:パーティー → パーリー
TがRと母音に挟まれていて、かつTの直前の母音にストレスがある
Tのあとはスペルこそ「Y」ですが、発音記号では / i / です。つまりRと母音に挟まれている例です。音声変化のルールには、スペルは関係ありませんよ。考慮すべきなのは、あくまで発音です。
shut up:シャット アップ → シャラップ
Tが母音と母音に挟まれている(1単語内でないため、ストレスの位置は関係ない)
文章のなかでフラッピングが起こっている例です。こちらもTが母音に挟まれていますよね。
フラッピングはイギリス英語にはない!
このフラッピング/フラップT、実はイギリス英語では起こりません。イギリス英語では「T」を強く発音すると聞いたことがあるかもしれませんが、これはフラップTが起こらないというのが理由のひとつです。
フラップTが起こるのはアメリカ英語。私が住んでいるカナダも、発音はアメリカ英語に近いので、みんなこのフラップTを使って話していますよ。
ちなみにイギリス英語に似ているといわれるオーストラリア英語では、このフラップTが起こります。スペルはイギリス英語よりなのに、一部の発音や抑揚などはアメリカ英語に近いのです。
音声変化ひとつをとっても、地域や個人によって、色んなバリエーションがあるのはおもしろいですよね!
フラッピング/フラップTの例一覧
それではたくさん例を見ていきましょう。ここではまず2つの種類に分けて紹介します。
- ひとつの単語内で起こる変化
- water:ウォーター → ウォーラーなど
- 文章のなかで起こる変化
- shut up:シャット アップ → シャラップ
後半では番外編として意外なフラッピング/フラップTも紹介していますよ!
ひとつの単語内で起こるフラップT
- water
「ウォーラー」のように聞こえます - party
「パーリー」のように聞こえます - letter
「レラー」のように聞こえます - motor
「モーラー」のように聞こえます - better
「ベラー」のように聞こえます - dirty
「ダーリー」のように聞こえます - reported
「リポーリッド」のように聞こえます - thirty
「サースリー」のように聞こえます - pretty
「プリリー」のように聞こえます - university
「ユニバーシリー」のように聞こえます - computer
「コンピューラー」のように聞こえます
このあたりのオーソドックスなフラップTについては、のちほど紹介するプライムイングリッシュという教材のサマー先生のYoutube動画がとても分かりやすいですよ。ぜひ参考にしてください。
ここまでは「母音と母音」もしくは「Rと母音」に挟まれているときのフラップTでした。ですが実は「母音とL」や「RとL」に挟まれているTでもフラッピングが起こります。
Lという音は、これまた少し特殊。「left」のように語頭にくると「ライトL(明るいL)」といわれてはっきりとLの音が聞こえるのですが、「feel」のように語尾にあると「ダークL(あいまいなL)」になります。
この「ダークL」は「ゥ」のような、母音に近い音。そのためその前のTにフラッピングが起こるのです。
- title
「タイロゥ」のように聞こえます - turtle
「ターロゥ」のように聞こえます - little
「リロゥ」のように聞こえます - bottle
「ボロゥ」のように聞こえます
(TとLの間に「シュワ(ə)」というあいまい母音があるという考え方もあります)
文章のなかで起こるフラップT
- Shut up!
「シャラップ」のように聞こえます - What are you doing?
「ウォラー」のように聞こえます - Are you tired? - Not at all.
「ナラロー」のように聞こえます - You should check it out.
「チェッキラウ」のように聞こえます - What time did you get up?
「ゲラッ」のように聞こえます - What is your name?
「ウォリズ」のように聞こえます - I would love to go, but I can’t.
「バライ」のように聞こえます - That is what I meant.
「ウォライ」のように聞こえます - You need a lot of money to live in Tokyo.
「アロロブ」のように聞こえます - I don’t know much about it.
「アバウリッ」のように聞こえます
番外編① ‐ntで起こる鼻音化フラップT
「LとDのあいだのような音」になるフラップTを紹介してきましたが、ここで番外編。Tに起こるフラッピングには、もうひとつ種類があります。それがTの前にNがある場合。
ここでは「ɾ」という音が「鼻音化」されたような音になります。Nが鼻音なので、その影響ですね。
舌の位置は今までのフラップTと同じく「LやDを発音する音」あたりなのですが、鼻から息が抜けるので実際は「N」のように聞こえることも(Nに同化しているイメージ)。
ちなみにこちらの鼻音フラップTも、直前の母音にストレスがあり、うしろも母音であることが条件です。
- center
「セナー」のように聞こえます - twenty
「トゥエニー」のように聞こえます - painter
「ペインナー」のように聞こえます
私が住んでいるカナダのトロント(Toronto)という地名にも「-nt」がありますよね。ローカルの人が「トロンノー」のように発音しているのをよく聞きますよ。
番外編② フラッピングはDにも起こる!?
実はフラッピングはTだけに起こる音声変化ではありません。Dにも起こることがあります(こちらは人によります)。つまり「T」と「D」以外の発音が同じ2つの単語だと、ほぼ同じに聞こえることも。
- writing と riding
どちらも「ライリング」のように聞こえます - latterとladder
どちらも「ララー」のように聞こえます
フラッピングをマスターするための教材
フラッピングを含む「音声変化」をマスターするには、たくさんナチュラルスピードの音声を聞き、自分でもマネしてみて、自分とお手本がどのように違うかを比べるという作業を地道にやっていくことが大切です。
それにはリピーティングやディクテーションといった練習法がオススメですよ。
モゴモゴバスター
こちらは音声変化が起こった「省エネ英語」を聞き取れるようになるための練習に特化できるサイト。音声変化に特化したサイトというのは珍しく、かなりスピードが速い音声が大量にありますよ。サンプルはこちら。
最初に、59アメリカドルまたは6,000円(為替変動によって円価格は調整あり)を支払うと全42レッスン(計6.5時間の音声)がずっと利用可能です。自分でもマネしてみながら毎日やりこめば、普通のネイティブの会話がゆっくり聞こえてくると思います。
そのほかリピーティングやディクテーションにオススメの教材です。
- プライムイングリッシュ
リスニング、発音、スピーキングなどを総合的に練習できます。サマー先生の動画もオススメ。 - イングリッシュセントラル
英語学習者用の動画サイト。単語の穴埋めや発音練習などをゲーム感覚で楽しめます。 - TED Talks
色んな分野で活躍している人のプレゼンを無料で閲覧できるサイト。興味深い話題が多いです。
音声変化というのは、ネイティブが自然なスピードで話したときに起こるもの。つまり一番いい教材はリアルなネイティブ同士の会話です。
英語学習者用の教材で自信をつけたあとは、英語圏のドラマや映画、トークショーやドキュメンタリーなど、より自然なシチュエーションでのネイティブ同士の会話を聞いてみましょう。
オススメ教材のより詳しい説明や、音声変化のマスター法については、こちらの記事を読んでくださいね。
フラッピング以外の音声変化
フラッピング/フラップT以外にも、音声変化には色んな種類があります。
- リンキング(連結):2つの音が繋がって1つの音になる音声変化
- chill out チラウト
- meet you ミーチュー
- リダクション(脱落):前後の音に影響されて、特定の音が消える(聞こえない)こと
- Good job. グッジョブ(Dが脱落)
- I like him. アイライキム(Hが脱落)
リンキングとリダクションについては、それぞれ別の記事で詳しくまとめていますよ。
アメリカに行くならフラッピングに慣れておこう!
フラッピングは「T」が「LとDのあいだのような音になる」音声変化です。発音記号は「ɾ」です。
- 1つの単語内で起こるフラップT:water → ウォーラー
- 文章のなかで起こるフラップT:Shut up. → シャラップ
番外編として「LとDのあいだの音」というよりは「Nに近い鼻音」になるフラッピング、さらにDに起こるフラッピングも紹介しました。
- 鼻音化したフラップT:center → セナー
- Dに起こるフラッピング:wedding → ウェリング
リンキングなどと違って、フラッピングは音声変化のなかでも「知っておかないと絶対に聞き取れない」音声変化です。スペルでは「T」なのに「LとDのあいだのような音」になるなんて、想像できませんよね。
とくにアメリカ英語が話される地域に行くなら、フラッピングには慣れておくといいと思います。
音声変化が理解できると、リスニング力アップに繋がります。リピーティングやディクテーションなどのトレーニングをコツコツ続ければ、すぐに聞き取れるようになると思いますよ。