photo by Ken Teegardin
これまで8回にわたって、韓国の国際大学院について、ご紹介してきました。最後に、「じゃあ、結局、どこがよかったの?何が身についたの?」というあたりをお話して、この連載をしめくくりたいと思います。
まずは「費用対効果」という観点で、修士号取得にかかった費用と時間をざっくり計算してみました(この記事の一番下に内訳を載せておきます)。
2年半の大学院生活で費やしたお金と時間
■在学期間
2012年9月〜2015年2月
*通常は2年間で修了できるプログラムだが、修士論文執筆のため、1学期延長して在学
■お金
7,586,000ウォン(約775,684円)
*2015年9月現時点のレート
(在学期間は円高ウォン安の時期だったので、実際にはこの7〜8割程度)
■時間
1,000時間
*通学時間、修士論文執筆にかけた時間を除く
決して安くはない買い物ですが、日本の私立文系大学の学費1年分より多少低い金額なので、どう捉えるかはその人次第かもしれません。また、私の場合、ソウルに住居があったので、この費用には住居費が含まれていません。
(「英語で学ぶ、韓国の大学・大学院留学のススメ」という記事で欧米への留学と費用面での比較をしていますので、興味のある方はこちらを参考にしてみてください)
得たものは、無限大(プライスレス。。)
次に、得たものについて、考えてみたいと思います。
人との出会い
なんといっても、これに尽きます。人との出会いの分だけ、人生がより豊かになると私は信じているので、この点が最大によかったこと。
(大学院での人との出会いについては、前回まで3回にわたって記事にまとめてきました(→その1 教授、講師の先生たち、→その2 院の友人たち、→その3 学外の友人たち)。そちらも合わせて読んでいただけると嬉しいです)
英語力
これはもうビシバシ鍛えられました。韓国学というマニアックな専攻のおかげもあり、講義は常に少人数で、私以外はほぼ英語ネイティブの学生。
背景知識は一番持っているという自負もあるので、英語力が多少劣るからといって負けるわけにもいかず(?)、関連論文や書物をがりがり読み、課題のペーパーを必死になってこなし、クラスメートのネイティブたちと日々ああでもないこうでもないと議論を交わし合った賜物か、この2年半で英語力がかなり伸びました。
今、日々英語ネイティブのお客さんを相手にする通訳案内士の仕事をしていますが、英語力においては、最初から問題なく仕事をこなすことができています。
「なんとかなる」という自信
院の入学時、私の息子は3歳になったばかりでした。20代前半から半ばが圧倒的なマジョリティだった院の中では、当然唯一の子持ち。
周りのクラスメートたちと比べて、学業に費やせる時間がかなり限られてしまうし、彼らのように試験前の一夜漬け、みたいな荒技(笑)をやってのける体力もありませんでした。
でも、必死になって学業に臨むうちに、ふと、時間が無限大ではないとわかっているからこそ、自分がかなり意識的に、有効に時間を使っていることに気づきました。
いくら時間が溢れるほどあるといっても、学業に集中していられる時間はみな、似たようなもの。であれば、育児と家事を抱えた自分が、殊更不利なわけでもない。
むしろ、院と家庭というふたつの世界を持っているからこそ、自然と息抜きができたり、ストレスが解消できたり、いいことのほうが多いことに、気がつきました。
そのことがわかってからは、自分のペースで院生活を送ることができ、上位の成績をキープできたことも重なって、自信がつきました。
実は、私は息子の出産前に、当時勤めていた会社を逃げるように退職してしまったことから、長年挫折感を抱えていました。
それ以来、自分に自信が持てないままでいたのですが、2年半の院生活を乗り切ったことで、失っていた自信をとりもどすことができたように感じています。
今の仕事にも役立つ知識、スキル
これは在学中まったく予想していなかったことですが、院で身につけた知識、スキルが今の仕事に大いに役立っています。
通訳案内士には、観光地の案内のほか、日本の歴史、宗教、文化、慣習について、お客さんに話をする機会が多くあります。
それらの膨大な情報をわかりやすく、興味を持てるように話をするためには、院で鍛えられたプレゼンテーション能力が必須です。また、それぞれのトピックについても、院で学んだ知識が非常に役立っています。
朝鮮半島の歴史を学んだことは、日本の歴史を違う視点で学び直すことでもあったので、歴史をわかりやすく説明するときに役立っています。
朝鮮美術で学んだ儒教と仏教の思想は、日本の仏教、宗教観を理解する助けになってくれています。
移民学のクラスで読み漁った論文からは、移民が当たり前の国からやってくるお客さんと話をするうえでのきっかけやヒントを得ています。
また、先日トレーニングを受けたアメリカの旅行会社では、旅行を通じて日本社会を学ぶということを大事にしていて、トレーナーと仲間たちを前に、修士論文のテーマでもあった在日コリアンについてプレゼンする機会を得ました。
自分が院で情熱をかけたテーマを、思いがけず、今の仕事の場で活かせる場面に遭遇し、スティーブジョブスの”connecting the dots”を思い出し、非常に感動してしまいました。
まとめ
というわけで、費やしたお金も時間も決して少なくはないけれども、それ以上に得たものが大きく、ソウルで国際大学院に行ったことは、これまでの人生のなかでしてきた数々の選択の中でも、最良のひとつだったと、私は考えています。
最後に、参考までに、費やしたお金と時間の内訳を、以下に記載しておきます。
■お金
<入学金>
1,234,000ウォン(約126,158円)
<学費>
・1学期目:3,176,000ウォン(約324,698円)
・2学期目:3,176,000ウォン(約324,698円)
・3〜5学期目:0ウォン
*成績上位だったため、3学期目以降は学費全額免除
*すべて、2015年9月現時点のレートで換算
<その他>
テキスト代、修士論文査定および印刷費用などが別途必要
■時間
<講義と課題>
修士号取得のためには、50単位の取得が条件。1単位あたり週に1時間の講義として、それぞれ10週程度あるため、単純計算して、50単位×10週で500時間。
<その他>
通学時間、修士論文執筆にかけた時間は除く。ばらつきはあるものの、1時間の講義に対して30分から1時間前後、事前リーディングや課題などに費やしたと仮定すると、250〜500時間。