前回は、海外の子会社に送った英文が伝わらなかったために、関係者が懲戒解雇になったり、鬱になってしまった、という悲劇をご紹介しました。

さて、そのように英語が伝わらなくて悲劇が起こってしまう理由の一つに、日本人が英語の「文章のフォーマット」を理解していない、というのがあります。

最近出版した「添削!日本人英語」でもご紹介していますが、英語圏では、ビジネスレターやメモ、履歴書、クレームの手紙、要件定義書などにある程度決まった形式や、大まかな「書き方」というものがあります。

用紙の使い方やフォーマットからして日本式とは違うのです。

日本式を押し通してしまい失敗する例が、マイクロソフト・エクセルなどの表計算ソフトを方眼紙状態にして、そこに大量に文章を書き入れて「はいどうぞ」と先方に送りつけてしまうケースです。

これ、英語圏ではほとんどやりません。そういうフォーマットを使う習慣がないので、受け取った方は「うわ、 なんじゃこれは!」と慌ててしまうわけです。

編集も大変だし、使い方もわからない。既存の文書のコピペも大変。業務が滞りますので、受け取った方は激怒します。激怒したらもう大変、「あいつらの仕事なんかやってやるか」と仕事をしてくれなくなることもあります。

さらに、用紙に日本式の枠を作り、その枠の中に日本式の略語を入れ、それを英語に直訳した文書を送りつけるケースも見られます。

お役所の申請書や、社内の稟議書をイメージしていただくと分かりやすいでしょう。例えば、「稟議」をそのままローマ字で「RINGI」と書いて入れてしまうなど。信じられないかもしれませんが本当の話です。

送りつけられた方は、意味不明の略語は入っているわ、そもそも上から読むのか横に読むのか分からない「フォーム」を送りつけられるわで、びっくりします。

「なんじゃこの枠が入った用紙は??」となってしまい、用語や、読み方、使い方についてイチイチ問い合わせなくてはなりません。

問い合わせの際も、相手方がそもそも英語を喋ることができなかったりするので、これまた一苦労。まさにドリフのコント状態です。しかし、問い合わせを受ける方は、問い合わせが来る「理由」がわからないのです。

「え〜?なんでわからないの?それうちで普通に使っている文書なんですけど」と答えてしまうこともあります。それがまた先方を怒らせます。

「ああ、日本人と仕事するの面倒臭いよ!あの人達何喋ってるのかわからないし、文書一つとっても形式が違うし、合わせろっていうんだよ!そんなことやってたら、俺、定時に家に帰れないじゃない。ほんとムカつくよね!!」

こうした恐怖の「ザ・ジャパニーズ文書」を書くのは、海外との交流がほとんどない官公庁や地方自治体、学校、国内マーケットのみでビジネスが成立している組織で働いている人達です。

彼らに共通しているのは日本国内のビジネス文書のフォーマットしか知らないことで、若い人から中年、熟年まで年齢は様々です。

海外で働いたことがなかったり、教育を受けたことがないと、そういう日本でしか通用しない用語を入れた文書や、日本でしか通用しない文書のフォーマットでも「問題ないさ」と軽く考えてしまうのです。

しかしたかが文書、されど文書。フォーマット一つで仕事の効率が変わってきますし、相手の反応も変わります。

実は私も若かりし頃は日本で働いていましたので、日本式のビジネス文書しか知らず、それを先方にお送りしてしまったり、英語圏のビジネス文書の書き方がわからなくて苦労したのです。

添削!日本人英語」を書いたのはそういう自分の体験が元になっています。次回のコラムでは日本人が伝わる英文を書くことができない理由について説明します。