こんにちは!フリーランスの現役英日翻訳者、ランサムはなです。これまで、私がプロの翻訳者になるまでの道のりをお話しして来ました。

1回目の記事では、英語教師になった私が、渡米して現地の日本語教師になり、日英特許翻訳のチェッカーに挑戦してみた話、2回目の記事ではNYの日系新聞社で、「1000本ノック」とも呼べる特訓を連日受けた話をしました。

3回目の記事では、フリーランスとして正式に独立するまでを、4回目の記事では、海外の会社と日本の会社の相違点、認定試験に対する見解をお話しました。

とりあえず、フリーランスとして生活していけるようになったところまでお話ししましたので、今回は、ここまでのまとめとして、翻訳者を目指している方にお伝えしたいこと、さらにフリーランスから一歩進んで、ノマド翻訳者になった経緯をお話ししたいと思います。

翻訳者を目指している方にお伝えしたいこと。

1.1つの分野で芽が出なくても、諦めないこと。

ご存じの方も多いかと思いますが、翻訳業界は、文芸翻訳、映像翻訳、実務翻訳など、実にさまざまな分野があります。そして実務翻訳と一口に言っても、特許、医療/医薬、法律・契約、IT、金融など、そこからさらに専門分野が細分化されています。

弁護士を目指していた人が法律・契約書を専門とする翻訳者になったり、(元)医師・看護師が医薬翻訳を専門にしたりするような場合は、自分の専門分野に関する迷いは少ないと思います。

でも私のような文系翻訳者は、英文科卒業=文芸翻訳者になる、という公式がありません。英語の勉強は続けて来たけれど、翻訳者として何を専門にしてよいかわからない、理系ではないから産業翻訳は無理かも・・・などと感じていらっしゃる方もいるかもしれません。

そのような場合は、貪欲に何にでも挑戦してみて、手応えを見極めながら専門を絞っていくとよいのではないかと思います。私自身も、最初、日英の特許翻訳に挑戦してみましたが、手応えはイマイチでした。

IT翻訳についても、背景知識もなく、これが自分の専門になるなんて、夢にも思っていませんでした。ただただ目の前の課題を1つ1つこなしていくうちに、専門が固まっていったという感じです。時代のニーズや、特訓の機会など、不思議なご縁に導かれて、専門ができていったと思います。

自分がやりたいことと、実際にできることとの間にギャップがある場合もあるので、1つの分野で思うように芽が出なくても悲観せず、自分に合った専門分野を見つけていくとよいのではないかと思います。

2.思い込みにとらわれないこと。

翻訳学校を卒業しても、どのようにキャリアを構築していったらよいかわからない、という方も多いと思います。

まずは社内翻訳者になって経験を積み、数年後に独立する、という計画が一般的かと思いますが、「十分な開業資金が貯金できていない」「営業が苦手だ」など、不安要素が気になって、独立を躊躇してしまう方も少なくないのではないでしょうか。

これはとても残念なことだと思います。翻訳という仕事は、開業資金がほとんど必要ない特殊な商売です。

十分な資金がなくても、私のプレスリリースの案件のように、長期的に継続収入が見込める仕事や、半専属のような形式で仕事ができれば、資金不足を補うことが可能です。

「営業が苦手」と言う方もいらっしゃいますが、翻訳の場合、いわゆる飛び込み営業はほとんど必要ありません。せいぜい翻訳会社の翻訳者登録ページに応募してトライアルを受けるぐらいなので、高度なセールススキルも必要ありません。

在庫が必要ない商売なので、先行投資も必要ありません。「種まき」のつもりで地道に登録先を増やしていくだけでも立派な営業です。自分にできるところから始めて、少しずつ軌道修正していけばいいので、否定的な思い込みにとらわれずに行動を起こすことが大切だと思います。

3.同業者同士のつながりはとても大切。

3回目の記事に書いたことですが、同業者同士のつながりはとても大切です。翻訳業界は狭い業界です。本当に有益な情報は、ネットではほとんど公開されていません。

そもそも大部分の売れっ子翻訳者は仕事に追われていて、ネットが趣味でもない限り、自分で情報発信をしている時間がありません。ですので必然的に、情報が「非公開」になってしまうのだと思います。

しかし、「どうすれば仕事がコンスタントに取れるようになるのか」「どうすればトライアル合格率が上がるのか」など、駆け出しの翻訳者が一番知りたい旬の情報を持っているのは、中堅~ベテランの先輩です。

セミナーや学会では、入れ替わり立ち替わり、いろいろな翻訳者が出入りしています。数は少なくても、個人的に数人の翻訳者とお話させていただくだけで貴重な気づきが得られることも多いです。

駆け出しの方は、時間的余裕があることをチャンスと捉えて、この間にネットワーク作りをされておくとよいと思います。

私も駆け出しの頃、ATA(米国翻訳者学会)やIJET(英日・日英翻訳国際会議)に出て、先輩に「仕事をコンスタントに取る方法」と「認定試験に合格する方法」をたっぷり伝授してもらいました。

その他、先輩に限らず、気の合った仲間が見つかれば、仕事が増えてきたときに仲間の間で融通し合う、など選択肢の幅も広がるので、やはり持つべきものは同業の仲間だと思います。

4.トライアルを怖がらないこと。

トライアルに落とされると落ち込むから受けたくない、という翻訳者は、プロの方の中にも結構いらっしゃいます。ですがそれはとてももったいないことだと思います。なぜなら試験というのは、一般に回数を重ねるごとに合格率が上がって行くものだからです。

一回落とされたらどこが悪かったのだろうと考えて、次回は落とされないように工夫します。そうすると自分の課題も見えてきて勉強になるので、結果がどうあれ何らかの収穫が得られます。

能力を試されると思うと身構えてしまいますが、腕試しに利用させてもらう、ぐらいの気軽な気持ちで挑戦すれば、変な緊張感に悩まされることも少なくなるのではと思います。

5.海外の会社に挑戦してみよう。

前回の記事で、海外の会社では日本語翻訳者が非常に希少価値であることを書きました。それだけ人材が慢性的に不足しているわけです。その一方で、日本の国内市場は飽和状態が続いているとも聞いています。

実務経験を早く積んでみたいのなら、海外の会社に挑戦してみてはどうでしょう。もちろん、想像を絶する低レベルの質問のお相手をしなければならないなど、面倒なこともあります。

でも、ある意味タダで英語の練習ができるわけですし、生活がかかっているため、必死にやり取りをすることで、語学力も鍛えられます。考えようによっては、一石二鳥ではないかと思います。

フリーランス→ノマドフリーランスの始まり。

おかげさまでフリーランスとして独立してから2、3年で、私は複数案件を常時抱える多忙な翻訳者になりました。

自宅でマニュアルを翻訳する傍ら、時にはサンフランシスコやシリコンバレーのダウンタウンでオンサイトの仕事をし、大手企業の社員食堂で社員とランチを食べるなど、仕事的には申し分ない日々を送っていました。

しかし残念ながら、私生活はそうではありませんでした・・・。最初の夫との結婚生活が破綻し、離婚することになったのです。これまでは夫婦共稼ぎでしたが、今後は家賃も生活費も、すべて一人で稼ぎ出していかなければいけなくなりました。

とても不安に思ったことを覚えています。家賃や物価が異常に高いサンフランシスコで、フリーランスとして一人暮らしを続けて行くことは、経済的にも精神的にも負担が大きすぎるように思えました。

また、自分が置かれている環境から距離を置きたい気持ちも出てきました。私は心機一転、すべてをリセットするために、古巣のテキサスに戻ることにしました。

シリコンバレーのようなオンサイトの仕事はないかもしれないけれど、物価の安い街でやり直せば、何とか生活していけるかもしれない。今思えば、それがノマドフリーランスの始まりでした。