photo by rok1966
人生は大玉送り。
坂井さんが語っていたことで一番印象的な話がこの話だった。
人生は運動会でやる大玉送りのように、大切なものを後ろに託していくことが大事。そして、一番大事なのは後ろに誰がいるかを確認せずにそれを後ろに送っていくこと
特定の人々や特定の団体、会社のためにだけ何かを成し遂げて、それを遺産として残すのではなく、分け隔てなく後世のためになにかを残していくのが大事ということなのだろう。
TOEICの先になにがあるか
英語学習者にとってTOEICはエポックメイキングな出来事だった。TOEIC が広がったことによって、「英語を通じて、外国人とコミュニケーションを取る」能力はある程度数値で測れるようになった。
またアカデミックな英検よりも、受験者にとってはとっつきやすいTOEICのおかげで、英語学習の裾野が広がったことも事実だ。しかし、TOEICが普及して20年経っても、「英語が話せない日本人」というレッテルは一向に変わる気配はない。
もちろん、一方ではオンライン英会話スクール、無料英語学習サイト等、以前では想像できなかった安価なサービスが生まれ、英語学習の効率は上がり、その手段も飛躍的に増えたことも事実だ。
人生は大玉送り。
だとするならば、我々は次の世代に何を残せるのだろうか?今の時代、一生懸命受験勉強して一流大学に入り、一流の会社に入ったところで、雇用なんて保証されない。
東芝やシャープなど日本を支えてきた家電メーカーも軒並みスキャンダルや海外メーカーに押されて苦戦続きだ。その一方で起業自体はしやすくなったが、成功者も数えるほどだ。
一時期もてはやされた「ロングテール理論(インターネットを用いた物品販売の手法、または概念の1つであり、販売機会の少ない商品でもアイテム数を幅広く取り揃える事、または対象となる顧客の総数を増やす事で、総体としての売上げを大きくする)」も結局は人気商品ばかりに注文が殺到して、ブロックバスターが多勢を占めることが証明されつつある。
要は資本力があるものが勝つということが、インターネット市場でも証明されつつあるわけだ。だが、それでも人々の生き方がより自由になっていることは事実だ。
半年間、世界を旅しながらロスアンゼルスにあるモデル事務所を経営するアメリカ人を知っているし、税理士なのに定住先を持たず常に世界中を旅して仕事をしている友人もいる。
また先日まで日本に3ヶ月ほど滞在して、日本時間の0時から朝の9時までアメリカの旅行会社のオペレーターとして勤務していた友人もいた。
インターネットがなかった時代には考えられなかった働き方だ。自分自身も2009年よりオンライン英会話スクールを立ち上げて業務をすべてオンラインで行えるようにした。
それから2011年から2年間ブエノスアイレスに滞在し、その後世界一周をしながら次の滞在先を探して、結局メキシコシティに腰を落ち着けた。今はまた日本に滞在しているが、来月から再びブエノスアイレスに行く予定だ。
別に誰もが世界を旅しながら仕事をしたいとは思っていないだろう。それでもひとつ言えることは国籍に関わらず英語さえできれば、格段に生き方の選択肢が広がるということだ。
一人一人が独自の価値観を持ち、自分たちが生きたいように生きる人たちが一人でも増えることによって、この硬直した日本の社会も変わっていく。
会社に勤めていようが、起業しようが、なにをしようが今後は常に複数の選択肢を持てるように努力することがとても大事だ。そして、「英語」を習得することにより、その選択肢を格段に増やすことができる。
自分たちの世代ができることは、今まで想像できなかったような多くのロールモデルを作り、自由に生きる人をもっと増やして、多様な価値観を認められるような成熟した社会を作っていくことだと思っている。
時々、ふとした瞬間に坂井さんが言っていたことや、その特徴的なしぐさを思い出すことがある。そのときは合点がいかなかったことも、今だったら納得できることもあるし、同時に未だに納得できないことも多々ある。
自分も、親子くらい年の違う人たちに、自分が死んだ後も、そんな風に思い出してもらえるのだろうか?真に偉大な人間は、その圧倒的な業績や作品を通して、死後も人々に記憶される。
だけど、その他多くの人たちは、人々の思い出のなかで生きていく。赤の他人の思い出になるだけでも、一人の人間の生き方としては、立派な業績だ。
多くの人たちが生きた記憶は死後、その骨とともに地中深く埋められたままで、特にそこから引きずり出されることもなく、静かに横たわっている。
人生は大玉送り。
だとするならば、坂井さんはその人生を最後まで立派に生き、そして確かに次の世代である自分に思いを残していった。もちろん、自分にだけではなく不特定多数の人たちに。
人はいずれ死ぬが、その人の思いは有形無形のものとなり、次の世代へと受け継がれていく。願わくば大玉の一部分となるような価値あるものや思いを次の世代に託したい。
たまたま坂井さんと出会い、たまたま英語教育に頭を突っ込み、なんとなく起業した。人生は偶然の連続の産物だ。その偶然を必然としてなんらかの形に残すのは本人の努力次第だと思っている。
時間は思い出を風化させると同時に純化させる。そうして残った記憶だけがきっと思い出す価値があるものだろうと思う。人生は大玉送り。なかなか素敵な言葉だ。
ご冥福をお祈りします。