photo by Mack Male

こんにちは、通訳案内士の上田裕美です。通訳案内士は、どんな仕事をしているか、比較的イメージを持ちやすい職業なんじゃないかな、と思います。仕事を始める前のわたしにも、漠然としたイメージがありました。

ですが、実際に仕事を始めてみると、想像と大きく異なっていたり、まったく予想していなかったことも多々あることに気づきました。そのなかでも特に嬉しかったのが、そうとは知らずに積み重ねていた経験やもともと好きだったことが、通訳案内士の仕事に生かすことができるとわかったこと

Steve Jobsの有名なスピーチがわたしも大好きなのですが、Steve Jobsのいう"Connecting the dots"ってまさにこのことだなあ、と思います。通訳案内士の仕事はとても幅広くスタイルもさまざまなので、これまでのどんな経験でも生かすことができるんじゃないかな、と個人的には考えています。

今回は、そのことについてお伝えするために、わたし個人のケースを1つのサンプルとしてご紹介します。

通訳案内士の仕事に生きている経験

営業経験

大学卒業後、企業2社で5年強、法人向け営業職に従事していました。営業はクライアントにとってその会社の顔であると同時に、社内ではクライアント側に寄りそって、関連部署の協力を仰ぎ、スケジュール諸々を調整しながら、担当案件を進めていく必要があります。この仕事のプロセスは、そのままガイド業にも当てはまります。

ガイドはお客さんにとってツアー主催先の旅行会社の顔であり、一方で、お客さんが安心してツアーを楽しめるよう、ホテルやレストラン、訪問先のスタッフの方々、バスのドライバーさんたちに協力していただきながら、ツアー行程を進めていきます。

いい仕事/ツアーにするためには、両者の間に立ち、どちらかに偏りすぎることなく、できるだけ両者共にハッピーでいられるよう、バランスをとることが大事です。

仕事のプロセス以外では、ものすごくつらかった飛び込み営業を思い出すと、自分で営業しなくてもすでに目の前にお客さんがいてくれることに感謝できるし、お客さんの我儘にも寛容な気持ちでいることができます。

また、ツアー中は何が起こるかわからず、想定しなかったハプニングに遭遇することもありますが、ここでも飛び込み営業で培った度胸と瞬発力が生きているように感じます。

会社勤め

終身雇用システム、従業員の会社への忠誠心の高さや長時間労働(すべて変わりつつありますが)は、日本社会の特殊さを示す一例として、海外でも広く知られています。

でも、日本に来たからには、そういった誰でも手に入れられる情報から一歩踏み込んで、「実際のところどうなのか?」を、お客さんは知りたがります。そこで、日本企業で働いた経験が大きな価値を持ち、現実を知る当事者として、経験談をお話しすることができます。

もちろん、ある程度の数字やデータを使って客観性を保つことも大事ですが、自分あるいは家族や友人などの個人の経験にひきつけてお話しをすると、より興味をもってお客さんに聞いていただけるように思います。

働く母であること

会社勤めの経験と同様、自ら働く母であることで、ワーキングマザーをとりまく日本社会の環境と日本の教育制度についても、当事者として話をすることができます。

働く母に限らず、「日本社会における自分のポジションを明確にして、その立場から見える社会のありようを話す」というのは、お客さんの関心をよりひきつける話し方の切り口だと思います。

大学院

夫の仕事のため4年強ソウルに住んでいたことがあり、そのときに現地の国際大学院で2年半、韓国学を学びました(使用言語は英語)。朝鮮半島と日本は歴史上密接に関わっているので、朝鮮半島の歴史を学ぶことは、日本の歴史を他者の視点で学び直すことだとも言えます。

専攻のクラスではほぼ唯一の日本からの学生だったこともあり、日本についての説明を求められる機会も少なくありませんでした。背景知識をほぼ持たない、もしくは偏った認識を持つ相手に対し、わかりやすく歴史的な物事の説明をするという経験は、ガイディングの際にとても役に立っています。

ついでにいうと、クラスメートはほぼ全員英語ネイティブの留学生だったので、この2年半でかなり英語力が鍛えられ、英語面では問題なくお客さんとのコミュニケーションをとれています。

通訳案内士の仕事に役立っている、もともと好きなこと

勉強好き

常に何かしらの勉強をしているので、周りから「勉強好きだね」と言われることがよくあるのですが、勉強好きは通訳案内士に向いている性分なんじゃないかな、と思っています

通訳案内士としてカバーすべき範囲は、無限です。仮に、ツアーで訪れるすべての場所を完璧に把握していたとしても、お客さんからの質問を100%予想して準備しておくのは、絶対に不可能です。

そのため、日本に関するあらゆることを学び続ける必要があります。お客さんからの質問に対応していくことはもちろんプレッシャーでもあるのですが、その反面で面白い要素もあります。

それは、これまで当たり前のこととしてスルーしていたことに興味が出てきたり、やたらと場所の歴史や由来を知りたくなったりと、自分の視野も広がっていくことです。

お客さんの質問にその場で完璧に答えるのは無理だとしっかり認めたうえで、少しでもクオリティを上げるべく学んでいく過程を楽しめる人は、この仕事に向いているんじゃないかな、と思います。

旅行好き

もともと旅行が好きなので、ツアーで訪れる都市は個人的に行ったことがある場所がほとんどです。加えて、ガイドブックや旅行ブログで情報を集めつつ、旅行中の行程を組み立てるのも、大好きです。

ツアー中にフリータイムが組み込まれている場合、どう過ごすかをお客さんに提案するのもガイドの大事な仕事なのですが、その際にこのことが役に立っています。

異文化への強い興味

大学での専攻で「異文化コミュケーション論」を選んだように、学生の頃から海外生活や異文化に強い興味があり、外国の友人とお互いの国の文化や風習の話をするのが大好きでした。

ガイディングでは、常に一方的に日本の話をするだけではなく、ときにはお客さんの意見や感想を聞いたり、お客さんの国のケースを教えてもらったりと、双方向でのコミュニケーションになるように気をつけています。

そうなると、お客さんにもより積極的に参加してもらえるようになるだけでなく、わたし自身も一緒に学ぶことができて、とても楽しい時間になります。

総括

今回この記事を書くにあたって、久しぶりにSteve Jobsのスピーチを聴き返してみました。毎回のことですが、やっぱり心打たれて、胸が熱くなってしまいました。ただ、これまでと違ったのは、わたしはようやく、心から愛せる仕事に出会えたんだなあ、と思えたことです。

通訳案内士は、チャレンジングな要素も沢山ありますが、挑み甲斐があり、とても面白く、やりがいのある仕事です。無理難題をふっかけてくるお客さんと格闘することもありますが、お客さんの人生に残るような幸せな時間を共有できることもあります。

みんなの英語ひろばという場で執筆の機会を与えてもらえたので、これからもこの仕事の魅力を伝えていきたいと思います。よろしくお願いします。

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上田 裕美

大学卒業後、会社員として2社で営業職に6年間従事。退職・出産を経て、2010年夏に夫、当時10か月の息子と共に渡韓。4年2ヶ月のソウル生活を経て、2014年末に帰国。在韓中、通訳案内士(英語)および高麗大学国際大学院韓国学科(使用言語:英語)にて修士号取得。現在、新米通訳案内士・通訳・ライターとして、修行中。英語検定一級取得。 twitter: @moriyumi0721
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