photo by Sohel Parvez Haque

「みんなの英語ひろば」の書籍題材として、以下を紹介したいと思います。

この書籍を出された大学時代の恩師であるDr. Bob Tobinという方にインタビューをしました。かつて、2003年の『NHKラジオ英語講座 入門ビジネス英語』で”Dr.Tobin’s Interview”パートを担当されていたことがあります。

Dr. Bob Tobinプロフィール

IBM、Gap、NEC、AIG、Disney、Citigroup、欧州委員会、米国海軍、UBS、ルイビトンなどの組織にコンサルタント、エグゼクティブ・コーチ、カンファレンス・スピーカーとして携わる。

日本の著名な教育プログラムのホスト、ボストンABC-TV加盟局のコメンテーター、TEDxのスピーカーを務める。東京に居住し、米国とアジアに渡る大学で教鞭を執る。

現在は名誉教授として、慶應大学商学部で初の外国人テニュア教授となり、リーダーシップ論、クリエイティビティ論、コミュニケーション論、変革論についてのコースを教える。

現在DrBobTobin.comというブログを運営し、Time誌で東京で訪れるべき4つの最高の場所の一つとして選ばれたTobin Ohashi Galleryを経営している。

私が大学時代に2年から4年まで参加したゼミが、このDr.Tobinの”Global Business Strategy”をテーマとしたゼミで、MBAさながらの授業を学部生の時に経験することができました。

ハーバード・ビジネス・レビューを読み込んで英語でプレゼンテーションをしたり、ディスカッションをしたり、Markstrat Onlineというビジネスに参加したり、各企業のフィールドワークを行ったりと、社会人になってからも糧となる様々なことを英語で学ぶことができました。

Dr.Tobinは大学を退職された後も挑戦をし続ける方で、東京を拠点に”Tobin Ohashi Gallery”というアジアの芸術を紹介するビジネスを展開されています。

Dr.Tobinはかつて南カリフォルニアで収入や地位においても充実した生活をしていたにもかかわらず、「真の充実感」が得られていなかったそうです。

その後、思い切った挑戦として日本に拠点を移して、最終的に自信、満足感、成功を得たそうです。

よく巷にある自己啓発本にあるような成功のモデルを当てはめるのでなく、自分自身についてより深く知ることが重要であることを説いています。

挑戦をすること、変革を起こすことに関して有名なフレーズがSteve Jobsのスタンフォード大学の卒業式での講演で伺うことができます。

” If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?" And whenever the answer has been ‘No’ for too many days in a row, I know I need to change something.”

「もし今日が仮に人生最後の日だとしたら、今やろうとしていることは自分の本当にやりたいことなのだろうか?そしてその答えが『No』であることが何日も続くようであったら、何かを変えなければならないと知ることになります」は有名かと思われます。
 
Dr.Tobinが常に挑戦し続けることを振り返って刊行されたのが”What do you want to create today?”でした。この本は英語学校の教材としても使われているそうです。

シンプルな英語で非常に読みやすい内容です。英語学習の域を超えた、英語を使ったキャリア開発についてもお話を伺うことができました。

”What do you want to create today?”は誰へのメッセージ?

ーーこの”What do you want to create today?”はシンプルな英語で書かれているにもかかわらず、力強い言葉とメッセージが含まれていますが、 この書籍をどのように書きましたか。また、これを書いたモチベーションはどういったものでしたか?

仕事のやり方・考え方に変化を起こすということを伝えたい、という思いがありました。多くの人が仕事でトラブルを抱えている状況で、どう変化を起こすかということを伝えたいと思いました。

人に変化を与えるというよりは、どう仕事を見るかという部分で変化を起こす支援をしたいと思いました。

ーーこの変化を起こすという視点はどの経験から由来しますか?

それは2つあって、 1つは教授の経験であらゆる人々と対話をしたことと、2つ目にはコンサルタントの経験でした。

コンサルタントではステータスの高い人々が対象でしたが、その人々が仕事について再考することや、思考や行動の自由について考えることを支援しました。

年長者で息苦しいラット・レース(猛烈な出世競争)にさらされているような方々に自信をつけさせていました。

ーーターゲットとしてどのような読者層とエリアを想定して執筆していましたか?

この本の主な読者層は当初、30代から40代の人々をイメージしながら書きましたので、主なターゲットは40代でした。

しかし、実際には一番反響があった層は20代および50代でした。多くの成功した企業の代表者は私に感謝の手紙を送ってくれましたし、若い人々からもその感謝をいただけました。

それは私が経営者にコンサルティングをしていたことと、大学で教授をしていたことがあっての結果だと考えています。

主なターゲットのエリアは日本とアメリカですが、さらに別言語で翻訳をできればと思っています。トルコでは既に販売していて、その次に韓国、中国に広げていくことを考えています。

表紙のデザインも気に入っています。デザインには時間をかけました。編集者や出版社から様々なアイデアをいただきました。

『力強さ』という観点でカバーを選びました。YOUとCREATEのところを強調したデザインを気に入っています。

この本の中では『あなた』について書かれている、というメッセージが込められています。

英語を教える経験で得た「自信を持つこと」の重要性

ーー先生の日本に来たきっかけを改めてお聞きしたいです。

初めて日本に来た1989年に、私は米国政府へのコンサルタントとして働いていました。

韓国、フィリピン、日本の基地にて、軍人および民間人の非軍隊キャリアへの移行支援に携わっていましたが、一年の予定だったにも関わらずそこでの仕事が面白いと感じ、もう一年延長して日本に留まることを決めました。

別の仕事が決まるまで、そのキャリア開発の仕事から離れてはいけないと友人に諌められましたが、そうはしませんでした。

市場調査や自分のスキルの需要があることを経て、私は東京で仕事を見つけることができる自信がありました。そして、他者に自信を持ってもらうための仕事を見つけることができました。

ーー大学ではリーダシップ論や組織変革論を教えられていたのですが、英語を教える経験がありましたか。

1年ほどの期間、多くの外国人がするように、私は英会話学校や日本企業で英語を教えていました。それは自信を持つことの重要性を学んだ仕事でもありました。

私が教えたすべてのクラスでは、語彙の授業をしてほしいと生徒は言いましたが、私はそれに同意はしませんでした。ほとんどの生徒は私よりも単語については知っていました。

私は語彙を教える必要性があるとは思えませんでした。また、生徒は口を開けて話をしようとしませんでしたし、間違いを恐れて黙ったままで、自分のことを英語で表現しようとしませんでした。

私は生徒が勇気を出して自信を持って話をするべきだと思いました。私にはなぜ生徒が喋ることを恐れているのかがわかりませんでした。

他の先生に間違いを直されて恥ずかしいと思ったのが原因かもしれませんし、理解できないことを恐れているのかもしれません。

私は生徒が全員喋るようにさせ、生徒の間違えを全て正そうとはしませんでした。その代わり、”Start Talking”と励まし、生徒が喋った時には褒めました。

私は生徒が話していることを理解していることを知らせ、それは生徒にとって力強いメッセージとなりました。

そして私は生徒が『私の英語は下手なものでお許しください』『英語はしゃべれません』と言うことをさせませんでした。

一言も喋ろうとしなかった年配者の生徒の中には、数週間後にはクラスに来なくなった方がいましたが、その生徒達には、前に教えられていた授業と同じように語彙の授業をして欲しいという思いがあったようでした。
 
一方で、若い生徒は私の教えた英語の方法が面白くためになると感じてくれたようで、『今までの英語の先生で一番だ』と言ってくれました。

慶應大学でビジネス科目を教え始めた際にも、英語を教えに来たのでないことを明確に言っていたのにもかかわらず、同じコメントを聞きました。

これで私は自分が一番だと思うことを実行して自信を持つことができたことをうれしく思いました。これは覚えて欲しいことなのですが、自信は人から人へ影響を与えるものです。

自分の行動と自信は、交渉やプレゼンテーション、面接、同僚との関係、自分のキャリア、パートナー(経営者)と会うことに対して力を発揮するものなのです。

キャリアを開発することについて

ーー「キャリアにおいて充実感を得るための第一歩は自分自身についてと何をしたいかを知ることである(p.16)」とおっしゃっていますが、日本の多くの若者は自分の仕事に満足できないことが多いと言われています。それについて、6つの方法を言及されていますが、どうやってこれを見出しましたか。中でも「新しい場所に行く、違う人間と出会う、今までやったことのないことをする」は一見遠回りのように見えますが、興味深いです。

これは、いままで教えた生徒が実際に行動に起こしたことを見たこと、また自分に対しての示唆や一緒に働いてきた顧客に対しての示唆でもあります。

自分は何者なのか、自分は何をしたいのかを理解するためのステップを踏んでいくことです。これは突然出てきたものでなく、自分のために考え、そして顧客について考えた結果から来ています。

以前、大学で生徒に教えたことなのですが、リーダーに最も重要なことは『自分をよく理解すること』なのです

ーー書籍の中で「顧客が仕事で全て学び切ったといった場合、私はその人たちに仕事を辞める前に自分自身についてできる限り学ぶことを提案している。そうしなければ次の仕事で同じような誤ちを繰り返す」と書かれています。これについてさらに日本の若い人へ示唆をいただけますか。

仕事をしていく上で、問題が生じるのは仕事そのものよりも自分自身に原因があると考えたほうがいいです。もし仕事が退屈であると感じた場合、自分自身が退屈なのではないかと考えることです。

できる限り学び続けること、会社の中でも機会を伺って挑戦をしていくことが大事であり、自分について学び続けることは常に出来るもので、終わりがありません。

大学で教えることとコンサルティングをすることには常に学びがありました。

英語を使ってよき人とめぐり会うことについて

ーー「自分の周りを最良な人材で囲む(p.119)」「仕事を素晴らしいものにするのは人とのつながりである(p.133)」と書いてあります。日本人が日本人だけでなく外国人のベストな人材と出会うには英語を使うことが必要となると考えますが、どのような示唆をいただけますか。

最良な人間に会うというよりも、より多くの人々に会えるようにすること、そして多くの言語に触れておくことが良いと思います。

最良な人間に会うには、自分が最良な人間となることがカギとなります。

会社で外国人と日本人の同僚と働く中で、英語を話せることは役に立ちますが、同時に優れた日本人もいることを念頭に入れるべきです。

その優れた日本人の中には英語を喋り、広い人脈を持っている人がいて、その人と話している中で言語以上のものの発見があります。

『言語は道具である』とよく言われますが、言語は仕事に学びを与えることや、他者とコミュニケーションを取ることを教えてくれます。

「空気を読む」ことについて

ーー第4章で「空気を読むべき」と書かれていますが、日本の「空気を読む」という文化について、日本にいる外国人の中には批判的な意見を持っている方もいます。しかし、「自分が見えないところに基づいて状況を単に理解することである」と書かれていますが、「空気を読む」ことが重要である理由は何でしょうか。

実は私が『空気を読む』ことについて語ると、多くの日本人は驚きますが、『空気を読む』ことは非常に重要で、ビジネスをしていく上で役に立つことだと思います。

パーティーに行くとわかりやすいのですが、ビジネスについて話しをする際、いつが適切か・適切でないかを知ることができます。

私も来日当初は、空気を読むことについてうまく対応することができませんでしたが、若い外国人とってはためになるアドバイスであると考えています。

『これは自分のやり方だ』と押し通すことが必ずしも正しいとは限らないことがあります。

勇気を出すことについて

ーー「日本でよく聞くことはリスクを取ることが少ないことである(p.100)」と書かれていますが、最近の日本人の若い人は保守的になってきているという意見もあって、成功できるか否かに関して心配する傾向があると感じられます。心地よい暮らしをすることのほうがよいと考える動きもあると思います。その中で、より多くの日本の若者が挑戦をするためには、何を考えられますか。

心地よい状態で居続けることは避けたほうがいいと思います。『とても心地よい(so comfortable)』ことは『心地よくない(uncomfortable)』と言えますが、これは少々理解し難いところがあるかもしれません。

心地よい状態にいることは悪いことでありませんが、自分の仕事に満足していないという人は心地よい状態にあると言えます。

『とても心地良い状態にいる』ことは、自分自身にチャレンジせずに、チャレンジに対する恐れを持っている状態のことを指すと言えます。

私は心地よいゾーンから外に出てみることを勧めています。心地よさという点で、2つのタイプの人間が存在しています。

1つはアメリカでも他の国でも多くの人が保守的になってきていると思われますが、もう一方で私の生徒やセミナーを受けた人のように冒険心にあふれる人がいます。

リスクをとって行動したい人、よりエキサイティングなことをしてみたい人、ベンチャー事業を立ち上げた人、心地よい状態を断ち切った人など、様々な人がいます。

私は長年大学教授をしており、その期間は心地よい状態であったと言えるかもしれませんが、授業を展開するだけでなく、コンサルティング的な仕事にもより関わる事が出来るようにしていました。

 心地よいことは必ずしもよいことでないと考えています。日本は人によっては窮屈なところに感じる人もいるかもしれません。

英語テストスコアとキャリアについて

ーー日本人が英語を鍛えるという話になると、よくTOEFLやTOEICやIELTSなどのスコアを上げることが挙げられます。こういった客観的な指標は大事だと思う一方で、何か他のアドバイスをいただくことはできますか。

多くの企業はこういったスコアを要求することがあります。

場合によっては、スコアの点数を上げる必要のある人がいるかとは思いますが、コミュニケーションに役に立つかというと必ずしもそうでないと考えています。

その上でアドバイスはいくつかあります。1つは語彙の学習に没頭しすぎないこと。

多くの日本人は『もっと多くの単語を覚えなければいけない』と思っているかもしれませんが、自分の単語を活用する必要もあると思います。

2つ目にはミスを恐れずただ喋って喋ることです。異なる文化の人とどんどん会うこと、フランス英語など様々な英語を喋る人と会うことです。

3つ目は『すみません、私の英語は上手でありません』と決して言わないことです。それはとても悪いメッセージを相手に伝えることになります。

弱みを見せてしまうことにもつながります。4つ目は楽しむことです。私は日本語をそれほどうまく喋ることはできませんが、ジョークを言ったりして人と人とをつなげることができています 。

ーーよくアジア圏の新興国の人とお話をすると、英語圏のネイティブのような発音を目指して英語を操り、テストのスコアを上げることがキャリア開発につながるという考えが見受けられました。それについてどう考えますか。

英語にはさまざまな訛りがあります。私はそれほど強くないもののボストン訛りがあります。

私の日本人パートナーはネイティブのように英語は話せないですが、あらゆる人と英語で打ち解けて話をしています。

よいスコアを取ることによってキャリアの上でドアの入り口に立つことができますが、よいスコアを持っていてもコミュニケーションを取ろうとしない態度は感じが悪いという印象を与えてしまいます。

また完璧な英語を喋ることが出来ても態度が悪いと、コミュニケーションを取ろうとは思えなくなります。結局はパーソナリティーというテーマに行き着くと思います。

まとめ

最も印象的なのは、「自信は人から人へ影響を与えていくものである(Confidence is contagious)」と言及されたことでした。

もちろん、地道にスコアを上げることも大事だと思いますが、一方で、英語を使って自分のキャリアをどう切り開いていくか、何に挑戦していくかということに関して、多くのアドバイスが得られたと思います。

挑戦をし続ける中で自信をつけていくことが土台となって、英語学習でもキャリアでも充実した結果を出すことができるのだと思えました 。