今回は、新興国の現地語を参考にした、英語の学習の仕方について記載したいと思います。「英語学習のサイトなのに、なんでそんな他の外国語を語るんだ」と怒られるかと思います。

しかし、他の外国語を少しでもかじると、実は英語学習で日本人が苦手とするところが見えて来るという発見がありました。

私自身、英語の他にどんな言語を学んできたかというと、タイ語、モンゴル語などいわゆるマイナーな言語でした。ちなみに大学の時の第二外国語は中国語でした。

言語学をやっている方からすると、いろいろ叱られそうな内容かもしれませんが、体当たりで、現場で体得したノウハウをご紹介したいと思います。

目次

日本語に無い音を意識して何度も練習する

英語で「日本語にない音もしくは意識しないと出ない音」として、よく取り上げられるのがL[l]とR[r]、N[n]とNG[ŋ]、Y[j]とI [i]、S[s]とSH[ʃ]、th音[θ/ ð]、 v/f音などです。

よく日本人の英語で突っ込まれるのは「LとRの発音が下手だ」ということで、これまでいろいろな書籍やWebでも語られ続けたテーマだったと思います。

実はLとRの発音に関しては、モンゴル語、タイ語、中国語ではしっかりと区別されています。意外にも、LとRが区別されてない言語の方が珍しいようです。

これに苦手意識を持っている場合、他の外国語もカバーしてみると発音がより強化されると思います。英語の記事なのですが、英語のLとRの発音のために以下他言語の解説、お付き合いください。

モンゴル人で、日本語を専門とする元外交官の方にお会いして一緒にお昼に行った際、こんなことを言われました。

「日本人のモンゴル語のL(Л:エル)とR(Р:エル)の音は、外交官の中ですらもうまく言えない人がいたりいます。これをしっかり言えないとモンゴル語は全く通じないですよ。

何を言っているかわからなくなってしまうんですよ。だから、手の” гар (gar:ガル、「手」)”と”гал(ar:ガル、「火」)”は音を意識して毎日練習してください。

いいですか、毎日意識してですよ。そうすれば、必ずできるようになります。」私自身、これを痛感していました。初めの頃、ホームステイ先で本当に、全くモンゴル語が通じないのです。

LとRは英語でもあるのですが、英語の要領で発音をしても「全く」通じません。英語のLは舌の先を前歯の裏につけて発音するものであり、英語のRは舌を口の中で上げてちょっと巻くような感じという感覚がありました。

しかし、モンゴル語のL(Л:エル)とR(Р:エル)の発音はそんなに生易しいものではありませんでした。

L(Л:エル)は「舌先を上あごの歯茎の付け根あたりに添えて発音をしますが、その際に下の両脇を狭め、そこから強く息を漏らすように発音します」とのことです。

言語学的には「無声歯茎側面摩擦音」というそうです。多くの日本人はこの難解な発音で学習を挫折します(笑)。

さらにモンゴル語のR(Р:エル)は「英語のrとは異なり、舌先を強くふるわせる巻き舌のrです」とのことです。

モンゴル人から実際に聞いた話、外国人に対して「こいつモンゴル語できるな」と思うポイントは、まさにL(Л:エル)とR(Р:エル)がしっかりとできるか否かだそうです。

私は本当に毎日意識して発音し続けたら、舌の先を上あごの歯茎の後ろにつけて空気を膨らませるような絶妙な感覚で発音するコツを身につけました。

逆に言うと、「英語の方のLとRの音も英語独自のものである」ということをしっかりと認識しなければなりません。

モンゴル人の英語初級レベルですと、この英語のLの発音がものすごく大げさに聞こえます。しかし、LとRの区別ははっきりされているので、欧米人からすると日本人の英語よりははるかに聞こえやすいそうです。

もともと、「NHKのラジオ英会話」を毎日聞き続けたため、LとRの発音はしっかりと区別してできていたつもりでしたが、モンゴル語とタイ語のLとRをマスターすることで世界が広がった気がしました。さらにいうと、タイ語にも明確なLとRの区別があります。

タイ語のLはลで表され、Rはรで表されます。タイ語の方のLは「舌先を上の歯茎につけて発音する」とあり英語と同じぐらいの感覚ですが、Rは「舌先で歯茎のあたりを弾いて発音する」で巻き舌で結構強めに発音しています。

また、日本語にあるけれども意識しないとなかなかできないものとして、NとNGの音があるかと思われます。これもモンゴル語、タイ語でもしっかりと区別されています。

Nは「船内(センナイ)のン」で「舌先を上の歯茎にしっかりとくっつけて発音する」ものです。一方NGは「船外(センガイ)のン」となり、喉の奥で止めるような音となります。

このNとNGですが、どうやって聞き分けているんですか?とタイ人に聞いたことがあるのですが、「口をよく見ろ」と言われました。Nは舌を上あごにくっつけて、NGは舌をくっつけていないでしょ、という説明でした・・・。

いや、オーディオを使うリスニングの試験でそれはわからないでしょ、と突っ込みたくなりましたが、「感覚を磨く」という訓練は必要だなと学びました。

さらにいうと、IとYの違いもあります。日本語の「や、ゆ、よ」の音ですが、やや意識しないといけないと思われます。英語ではearとyearの発音の違いを意識するようになります。

舌の先を前歯で少し挟む音のthなどさらにいろいろな発音を鍛えられたい方は、「東京外国語大学言語モジュール」の英語で、「発音モジュール(Tufs kids)」を参考にされると良いかと思われます。子供向けのものですが、かなり良くできています。

日本語に無い発音の練習の大切さ

あるMBA予備校の無料講座に参加した時、そこの学院長が「TOEFLのSpeakingで日本人が高得点を取るのは相当厳しい。ReadingとListeningでしっかり点を稼いだほうがいいです」とアドバイスしていました。

そのとき、”Money”という発音をする際にも、気をつけてMの音を発音しないと、ネイティブに英語らしく聞こえません、と注意されました。

完璧にネイティブのように発音することはまず難しいと思います。寧ろ、そのようなレベルは通訳を生業とする方や外交官クラスなど言語の専門性を求められる職業の方々を除けば目指す必要はないかと思います。

しかし、日本語話者が苦手とする音はしっかりと意識する必要があると思います。さらに、これからはアジアの中でも英語を使う機会がますます増えてくるかと思われます。

相手の言語が日本語にない発音をどれぐらい操っているのかを知ると、相手の英語の癖のようなものも掴むことができるかと思います 。

悲しいのが、留学経験がないにも関わらず英語が非常に堪能な中国人から「日本人ってLとRの区別ができないんでしょ」と言われてしまったことです。

たしかに日本語には無い音なのでそう言われても仕方がないのですが、それで英語もできないでしょと思われるのも悲しいので、なんとかアジア圏で区別されているLとRぐらいは操れるといいかと思いました。

モンゴル人の外国語学習:「耳」と「口」を重視

私がいたモンゴルは中国とロシアという大国に囲まれているためか、外国語学習が非常に盛んな国であることがわかりました。

モンゴル人の相撲力士が他の外国人力士に比べて日本語が段違いに上手だ、という認識はあるのではないでしょうか。しかし、日本語だけでなく、英語も発音がかなりしっかりしていると思いました。

こういうと怒られそうですが、一般的なモンゴル人は文字を書いたり読んだりするのが弱い反面、生の音を聴く力はずば抜けて高いと感じました。

この背景には、モンゴル語が日本語に比べて複雑な子音・母音をたくさん持っているため聞き取り能力が発展している、という説があります。

一方でモンゴル語では「p(ペー)とf(エフ)の発音の区別が弱い(特に年配者)」と「母音調和(同じような母音が続くこと)」という弱点があるそうですが、それでも、英語の発音は上手だと思いました。

私が中学校の時の英語学習でも「生の音を大事にする」というのは気をつけていたところです。

こういうと怒られそうですが、当時、教科書が面白くなくて、「この教科書を使っていたら本物の英語は身につかない!!」と本気で思い、NHKのラジオ英会話の方を優先して英語を勉強していました。

学校の英語は補足という程度で独学で学習を進めていました。とにかく、NHKのラジオから流れるネイティブの音を真似るように必死になっていました。

いま思うと、これは「耳」と「口」を重視したやり方で、正しい英語学習だったと思います。英語教本に限らずいろいろな言語の書籍にはCD教材が必ずついているので、それを何度も聞くことから始めることをお勧めします。

一番最初ですと、文字と発音の章となっており非常に地味でついつい飛ばしてしまうのですが、そこは飛ばさず「ネイティブがどう発音しているか」を注意して聞く必要があると思います。これは、意外に大事な視点だと思います。

モンゴルで留学に来ていた東京外大の留学生から聞いた話ですが、東京外大で外交官専門官を目指す人は、iPodなどのディバイスで自分の専攻している言語(ロシア語など)を聞きながら黙々とランニングするぐらいかなりストイックに鍛えているそうです。

発音のサボりを押さえる

語学を鍛えるのに最も良い方法は「ディクテーション」と言われています。私も受験生の時にリスニングの対策でよくやっていましたし、YouTubeで気に入ったものも文字に起こしたりしていました。

そのとき、英語の聞き取りで壁となるのが「発音のサボり」です。「発音のサボり」とは「リダクション(発音されないで消える)」、「リンキング(隣あう音が繋がる)」「フラッピング(音が濁る)」とも言われています。

会話表現で見られる現象です。以下、例となります。カタカナで表記すると全然正しい音を表現できないのですが、便宜上、こんな感じに変化するというのを示すために書きます。

(前)が文字通りの発音、(後)が会話場面で発音される音です。

  • リダクション(発音されないで消える):Good morning(前)「グッド・モーニング 」→(後)「グッ・モーニン」(dとgの音がサボられる)
  • リンキング(隣あう音が繋がる)」:I take it(前)「アイ・テイク・イット」→(後)「アイ・ティキィ(ト)」(takeとitがつながる)
  • フラッピング(音が濁る):water(前)「ウォーター」→(後)「ウオーダー」(tがdっぽく濁る)

このリダクションはモンゴル語でもあります。モンゴル語は母音よりも子音を優先する言語で、母音がどんどん適当になる「リダクション」がよく起こります。

以下例を2つ挙げます。(前)が文字通りの発音、(後)が会話場面で発音される音です。

  • Энэ хаанахынх юм бэ. (前)[エヌ・ハーナヒーンフ・ユム・べ]→(後)[エヌ・ハーナヒーヒー]
  • Хэдэн цаг болж байна  (前)[ヒデン・ツァグ・ボルジ・バイナ ] → (後)[ヒデン・ツァグ・ボロジェーン]

全く原型をとどめていない形で、これも外国人学習者泣かせという感じになってしまっています。どうやってこれを聞き取ったらいいのですか、と先生に聞いたら「とにかく覚えろ」と言われました・・・。

これを押さえるのはなかなか厳しいのですが、確かにこういうリダクションが起こることは頭の中に入れておく方が近道かもしれません。

もともとモンゴル語の文字は社会主義国時代がスタートしてからキリル文字を導入して、無理やり当てはめたところがあるので、このような例外が多々あるようです。

言語学の博士課程の方が仰るには、キリル文字に引きずられてモンゴル語の発音も変わってきているところがある、とのことです。

 このように文字通り読んでくれないという場面があるものの、ある程度パターンがあってそれを丸ごと覚えて対応するとよいと思います。

規則性を見出す:フォニックスで発音を鍛える

英語において文字と発音には一定の規則性があります。その規則性に注目して、英語の発音を効率よく学ぶネイティブの知恵として「フォニックス」が挙げられます。

Wikipediaによると「英語において、綴り字と発音との間に規則性を明示し、正しい読み方の学習を容易にさせる方法の一つである。

英語圏の子供や外国人に英語の読み方を教える方法として用いられている」とのことですが、簡単に言ってしまうと「英語の文字と音をルール化したもの」です。Webでフォニックスについて学ぶことができます。

「東京外国語大学言語モジュール 英語 発音モジュール(Tufs kids)」の「これってどう読むの?」のところで、各文字をどう読むのかをフラッシュ形式で楽しむことができます。

社会人の学習者は「今さらこんなことやらなくても・・・」と思われるかもしれませんが、一つ一つの音をちゃんと英語っぽく発音ができるか確認すると、自分の悪い癖を発見できる機会になるかと思われます。

フォニックスに関しては、以下の書籍でわかりやすく説明されています。

松香洋子『フォニックスってなんですか?』松香フォニックス研究所

このフォニックスのように、子供達に正しい読み方を教えるのに特化した学習方法は、タイ語でも見られます。それはコーカイというものです。コーカイとは日本語でいう五十音順図みたいなものです。

タイ文字44文字に子音だけの発音と昔から使われている単語を組み合わせて、発音しながら文字と発音を覚えます。

日本人には日本語の五十音でタイ文字を当てはめながら学習すると覚えやすいのですが、ある程度のレベルになってからコーカイで補強して学んでおくと文字を正しく読む精度が上がります。

タイ語には声調が5つもあり、それらを正しく発音しないと全く通じません。しかし、コーカイによって声調を効率的に掴むことができ、マスターへの近道となります。

英語のフォニックスやタイ語のコーカイのように、先人が築き上げた方法に倣うと、遠回りのようで近道になることがあるかと思われます。

発音を頑張ると何がよいか?

ここまで発音の話ばかりをしてきました。本来は文法などの話をするべきですが、英語・他のマイナー言語を学んで発音が非常に重要だということに気づきました。そう言える根拠は以下2点です。

現地人になめられない確率が高くなる

現地語で発音がしっかりしていると、タクシーや市場などでひどい目に遭う確率は減るかと思います。また、現地人からは同じ現地人として認識される(間違われる)ようになり、トラブル回避につながります。

私は、モンゴルでタクシーに乗って料金で不快になる場面が多々あったものの、危ないと思える場面に出くわすことがありませんでした。

しっかりと正しい発音で対応をしていたためです。また、見た目がモンゴル人に間違われることも多々ありました。

偉そうに言うものの、私はアメリカのような英語圏の先進国に暮らしたことが無いので、「アングロサクソンでないアジア人」として扱われた経験はまだありません。

しかし、英語の発音がしっかりしているだけでも現地で暮らしている人・現地に溶け込んでいる人だと思われるのではないでしょうか。

教材の音読学習が的確にできるようになる

語学の練習には音読がいいとよく言われていますが、やはり正確な発音で実施した方がよいかと思います。

シャドーイングと呼ばれる、CDなどで再生されるネイティブの正しい発音に沿って、真似をする訓練を続けると上達が早くなるかと思います。

モンゴルで知り合った英語話者の某企業のディレクターの方が「英語は訓練と慣れでしょう」とおっしゃっていました。まさに、その通りだなと思いました。

英語からだいぶ話がずれた内容でしたが、参考になればと思い紹介させていただきました。