こちらは韓国英語レポート「毎日英語レッスン1時間!韓国の幼稚園教育事情」の続編です。

英語教育が盛んな韓国では、海外への留学も大変人気があります。ソウル市内の移動にはバスが便利で日常的によく利用するのですが、バス座席裏のスペースにはほとんど留学斡旋業者の広告が掲載されているくらいです。

前回の記事では、幼稚園から始まる韓国の英語教育についてご紹介しましたが、今回は韓国の早期留学(「早期留学」=小・中・高等学校での留学を指す)にまつわる、「雁パパ」の存在をご紹介したいと思います。

みなさんは、「雁パパ」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。「雁パパ」とは、1990年代末の韓国で生まれた新造語です。

ピーク時には年間3万人近くもの小中高生たちが留学

韓国では、1989年の海外旅行解禁後に留学ブームが訪れました。もともと留学は上流階級がするものとの意識が強かったようですが、2000年頃以降は中産階級にまでその波が広がり、早期留学者数も劇的に増加しました。

2002年にはその数が1万人を越え、ピーク時の2006年には3万人近くまでに膨れ上がりました。

その際、幼い子供にひとりで海外生活を送らせることを心配した母親が子供の留学先に付き添い、父親が単身で韓国に残るケースが多く発生しました。

子供の教育のため、単身生活に耐えながら必死に働いて子供の留学費用(と現地での妻子の生活費)を稼ぎ、留学先に送金する父親たち。

雁は韓国において生涯伴侶の象徴であり、遠い距離を旅して雛たちの餌を求めてくることから、そういった父親たちは「雁パパ」と呼ばれるようになりました。

「雁パパ」を生み出す家族離散状態により、家庭崩壊や離婚も急増

家族の絆を大事にし、家長が尊重される儒教文化が根付く韓国において、「雁パパ」の存在はことさら人々の同情を集めたのでしょうか。

「雁パパ」を生み出す家族離散状態は、父親たちの健康悪化や家庭崩壊、離婚増加を引き起こす原因として、2005年を中心に社会問題化しました。

同時期に、韓国の早期留学生の急増現象に関する特集記事がアメリカのワシントンポスト紙に3面にわたって載されたことも話題になりました。

なぜそこまでするのか?

韓国における英語教育熱の高さの背景としては、大学の卒業基準や企業の新卒採用時に高いTOEICスコアが求められるなど、韓国社会において英語力を評価する傾向が顕著である、という切実な事情もあります。

また、教育を重要視する韓国文化に加え、子供にいい教育を与えるためには少々の犠牲を厭わない、という韓国の親たちの心情もあるでしょう。

少し話がそれますが、先日、我が子の教育にかける、韓国の親たちの真剣さに触れる出来事がありましたので、ここでちょっと紹介させてください。

その日は韓国の名門である高麗大学の入試当日でした。たまたま用事があって大学キャンパスを訪れたところ、キャンパス内から周辺のあらゆるカフェが、受験生の両親と見られる中年の男女たちで埋め尽くされていて、ぎょっとしました。

彼らは我が子の受験に付き添って大学までやってきて、試験が終わるのをそこでじっと待っているようなのです。

ほとんど会話もせず、物憂げな表情を浮かべ、微動だにせず一点を見つめながら我が子を待ち続けている彼らの姿には鬼気迫るものがあり、圧倒されてしまいました。

今後も「雁パパ」たちは増え続けるのか?

早期留学者数は2002年の3万人を境にして減少が続いており、2011年度では1万7000人弱にまで落ち着きました。

ウォン安による留学の経済的負担の増加や、国内での英語教育の充実により、今後も早期留学生数がふたたび増加に転じる可能性は高くないだろうという見方が一般的なようです。