先日、営業職として働いていた知人女性(27歳)が、「仕事をやめて、カナダへワーキングホリデーに行くことにした」と言うので、ちょっと驚きました。

彼女は営業成績もよく、社内MVPを何度も受賞しています。これからも仕事で「上」を目指すのだろうなと思っていたのですが、彼女は退職することに、一切の迷いがないようでした。

「海外就労」経験者の75%が女性

彼女のように、アラサー近くなって突然仕事を辞め、海外を目指す女性は少なくありません。

一般社団法人「海外留学協議会」が、厚労省の委託を受けて実施した「海外就労」に関する調査(2014年3月公表)では、回答者の渡航時平均年齢は25.6歳で、男女比は女性が75%、男性が25%です。

ワーキングホリデーや海外インターンシップの経験者は、若い女性が圧倒的多数を占めています。

渡航前の働き方は、6割がおおむね「正社員や自営業として働いていた」と答えており、若いうちに仕事をやめて、海外へ行く女性も目立つようです。

20代後半にもなれば、中堅社員として期待されるケースも増えるでしょう。一方で、結婚や出産を含めたキャリアについて、「このままでいいのかな」と悩む女子も増えてきます。

一昔前までは、男性なら「出世」、女性は「良妻賢母」として家庭に入るのが当たり前でした。

男女ともにライフコースが大方決まっていたので、あれこれ悩む必要はなかったのです。ところが、1986年に施行された男女雇用機会均等法によって、状況は変わります。

女性にとっては、「専業主婦」以外の選択肢が増えました。「結婚して主婦になるだけじゃなくて“自己実現”がしたい」「カッコよく生きたい」というムードが高まります。

その中で、多くの女子を惹きつけたのが「海外へ行くこと」だったのです。

ワーキングホリデーで「自己実現」を目指す女子たち

若い女性たちにとって、1980年に始まった「ワーキングホリデー」制度は魅力的でした。

ワーキングホリデーは、18歳から30歳までの若者が、原則として最長1年間、海外で休暇を過ごしながら、滞在資金を得る程度に働くというもの。

80年にオーストラリアとの間で協定が締結され、85年にはニュージーランド、86年にはカナダと協定が結ばれました。

バブル期には、若い女性がこうした制度を利用して、海外へ行くのが一種の「ブーム」となったのです。当時は、まだまだ、社会で女性が活躍できる環境は整っていませんでした。

「総合職として頑張りたかったのに、どうして『お茶くみ』なんてさせられるわけ? 期待していたイメージと違う。このまま寿退社を待つのかしら。そんなの退屈すぎる。だったら思い切って、海外で働いてみるのもいいかもしれない」

そう考えた女子たちは、海外(主に英語圏)を目指しました。「一家の大黒柱」として働き続けることを期待される男性に比べ、女子たちはワーキングホリデーという「自由」を選ぶ余地があったのです。

ワーキングホリデー経験は、キャリアに活かせるのか?

では、帰国後、彼女たちはどうなったのでしょう。心理学者の小倉千加子氏は、1990年に出版された『女の人生すごろく 』(筑摩書房)の中で、「今、30歳くらいの女の人が1番外国へ留学に行くそうです」と述べています。

「1年経つと帰ってきて、それでどうするか。英語ペラペラっていうわけじゃないですから、どうするのっていうと、『またそのうち考えるわ』。要するにフリーターになるわけです。(中略)

『そうやってあなたは将来どうするつもりなの』。その頃になると、『絶対、結婚したい』ってみんな言うんですが、35になってまわり見たら、相手がいないんですよね。」

ちょっと皮肉な言い方ですが、海外から帰ってきた女子の中には、結婚するでもなく、キャリアを追求するでもなく、ただ色々な決断を先延ばしにするようなケースもあったということでしょう。

小倉氏の指摘は80年代後半の状況を述べたものですが、冒頭に引用した「海外留学協議会」の調査(2014年)によると、ワーキングホリデーへ出かけた人は「正社員」等として働く割合が、渡航前の50.5%から44.8%へと低下しています。

代わりに5.9ポイント増えたのが、「様々な一時的な仕事」に就く人です。「正社員をやめてワーキングホリデーに参加し、帰国後はフリーターになる」女子は、今も一定数いるようです。

ワーキング・ホリデー:渡航前後の過ごし方の変化

海外就業体験が若年者の職業能力開発・キャリア形成への影響・効果に関する調査研究」(2014, p.42) より引用

2004年の前回調査と比べると、正社員として働く割合は増加しているものの、海外就労経験をキャリアに活かすのは、なかなか難しいのかもしれません。

ワーキングホリデーが「帰国後の就職で有利になったかどうか」聞いたところ、「かなり有利な条件となった(9.7%)」、「少し有利な条件となった(28.2%)」を合わせても、4割に届かないのが現状です。

もちろん、女子にとって「正社員でい続けること」が必ずしも正解とは限りませんし、ワーキングホリデー制度を批判したいわけではありません。

ただ、せっかくの海外経験を、キャリアに活かせないのは、ちょっともったいない。選択肢は多い方がいいし、海外へ行く「自由」も、あった方がいいでしょう。

ただ、その「自由」がキャリアアップにつながるとは限らない……。女性にとって本当の「自由」とは何か、考えこんでしまいます。

やや暗い話になってしまいましたが、これからは女性たちが、海外での就労経験を具体的なキャリアにつなげられる仕組みが、求められているのだと思います。