年の大半を外国のお客さんと旅する通訳ガイドのMarikoです。竹内理氏の「達人の英語学習」を読みましたが、英語学習のポイントがつまった有益な本だと思ったのでご紹介します。
英語学習は時間と労力がとても多くかかるので、成功者たちが既におこなった方法をマネしたい、それもできれば多くの人が成功してきた学習法が知りたいですよね。
また、最近では新しい学習法などもいろいろ耳にしますが、せっかくならば言語の専門家の意見を参考にしたいと考えている人も多いのではないかと思います。
そんな人におすすめしたいのが、英語学習本「達人の英語学習法」。言語の専門家の著者が外国語学習研究の成果を紹介しつつ、英語学習の成功者たちがおこなった学習法をまとめています。
様々な成功者の学習法を網羅的に集めているので、その中から自分に合った英語学習法を探したいと思っている人にはぴったりの本だと思います。
この記事では、本の内容などと合わせて、良かった点や気になった点などもご紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。
著者プロフィールと出版の背景
それではまずは、著者とこの本の出版背景についてご説明していきます。
著者の竹内理さんについて
竹内理さんは1962年生まれの言語学者で、関西大学外国語学部教授。
著書には『より良い外国語学習法を求めて──外国語学習成功者の研究』などがあり、外国語習得の方法や教授法について研究しているスペシャリスト。
2020年には、英語&中国語のコーチングスクール「プレゼンス」のアドバイザーにも就任しています。
「達人の英語学習法」出版の背景
この本は、いま英語を学習をしようとしている人々が少しでも豊かで実りある学習ができるようにと執筆したとのこと。
というのも、この40年ほどで外国語学習に関する研究は驚くような進化を遂げていて、多くの本や論文が世界中で出版されていますが、一般の私たちには届いていないんですよね。
いまだに怪しげな学習法がまことしやかに宣伝されているのをみて、なんとかこの混沌とした状況を変えたい、と思われたそうです。
「できるだけ多くの言語の学習者に、外国語教育に関わる研究の成果を知ってもらって、いろいろな学習法の選択肢があることに気づいてもらいたい」
そんな筆者の思いがこめられているため、内容は濃いのですが文章は読みやすいです。難しい話もそうとは感じさせないように紹介してくれています。
「達人の英語学習法」の内容とは?
この本は約200ページで、じっくり読んで2〜3時間ほど。価格は単行本で1,650円です。
内容は大きくわけて、
- 「達人」の定義と臨界期仮説
- 英語学習の成功には何が関係しているのか
- 達人の英語学習方法を紹介
の3部構成になっています。
まずはこの本のタイトルの「達人」の定義づけや、英語学習には年齢制限があるという、いわゆる「臨界期」についての見解を専門家の立場から解説しています。
次に、よく言われる英語学習の成功法や都市伝説の真偽について、わかりやすく解説。そして最後に、多くの「達人」のおこなってきた学習法を紹介しています。
英語を久しぶりに勉強しなおしたいと思っている人、もしくは現在学習を始めていて伸び悩んでいる人にぜひ手に取ってもらいたい内容です。
それでは、ここからは私が特に興味深いと感じたことを、それぞれの部分でピックアップして紹介していきます。
「達人」の定義と臨界期仮説について
まずは、達人と臨界期仮説について。この本のゴールを定義している骨格の部分です。
目指すべき「達人」とは?
この本は英語の「達人」を目指すための英語学習本。しかし面白いことに、多くの人が持っている「達人」のイメージを再定義するところからスタートします。
ついつい私たちはネイティブ並に英語を話すことを目標にしがちですが、実際にそういう日本人はあまりいないですし、それだとあまりにもゴールが遠すぎますよね。
しかし、日本で生まれ育っているのに、
- 英語の発音や抑揚が違和感を与えない人
- 自分の考えを英語で伝えて話して書ける人
- 軽い世間話も英語でできちゃう人
のような人であれば、意外とまわりにいたりするのではないでしょうか。
そのような「伝えたいことをきちんと伝えられる英語が相当うまい人」を到達点にしましょう、というのが筆者の提案です。
言語はあくまでコミュニケーション手段ですのでこれには私も賛成です。世界の英語人口のうち75%は非ネイティブですし、発音や文法などを気にしすぎるのはよくありません。
「到達不可能な理想像を追いを求めても意味がない」
「この定義であれば日本人の15%程度は達成できる。それは人口の約3〜5%の左利きの人を見つけるよりも3倍ほど容易!」
もちろんそれでも簡単な目標ではありませんが(笑)、そんなふうに励まされると自分でもできるような気がしてきますよね?
英語学習の臨界期はあくまで仮説
思春期をすぎると、どんなに英語学習をがんばってもしっかりとは身につかないという「臨界期仮説」がありますが、これは名前の通り単なる「仮説」だと筆者は一蹴します。
というのも、たとえばパトコウスキさんという学者が発表した論文で、アメリカに移住した67名の英語力を、移住した年齢と照らし合わせた研究があります。
そこから「15歳を超えてから移住した人の英語力は劣る」とわかりましたが、よくデータを見ると15歳を超えてから移住した人の中でも高い英語力を習得できた人もいるんですよね。
つまり、わかってきていることは、思春期をすぎると英語の習熟度には個人差がでるということ。英語学習能力がなくなるということではないのです。
「思春期をすぎたからといって、絶望する必要はありません」
勇気を与えてくれる力強い言葉です。そしてその個人差が生まれる要因については、次のパートで探っていきます。
英語学習の成功には何が関係しているのか
成人の英語学習に影響を与えると考えられてきた要因はたくさんあって、何が正しいのかわからなくなりますよね。
ここではそれらの検証が順番におこなわれるのですが、その中でも興味深かったものをご紹介します。
動機づけが英語学習成功を左右する
よくいわれる「英語のセンス」や「社交的な性格」などは言われるほど関係ないようです。しかし「動機づけ」は大切とのこと。
「動機づけ」が高くても、学習時間が十分にとれないなど環境的制約が邪魔することもありますが、やはり動機づけが高いと英語との接触量が増えるので伸びやすいようです。
「好きになれば身についてくる」
「興味をもてば人は進んで学ぶ」
たしかにどんなに忙しくても、楽しいものには無理矢理でも自分で時間を捻出するようになりますよね。
自分に合う学習スタイルがある
人それぞれ、好みの学習スタイルがあるというのも面白い視点。
アメリカの心理学者ガードナー氏によると、人間には、
- 言葉を効果的に用いる能力
- リズムやメロディなどを感じる能力
- 数の概念や論理思考
- 形や空間、色などを感じる能力
- 体の動きやバランスをとる能力
- 他人の意図や感情を感じとる能力
- 自分自身を振り返る能力
の7つの知能があり、得意不得意があるとのこと。そして、それによって合う学習スタイルも異なってくるといいます。
「学習スタイルが合わないと意欲が削がれる」
「そのスタイルも年齢や環境と共に変化する」
「変化に合わせて新しい学習法に挑戦しよう」
昔、友人から「洋楽を聴いて英語が上達した」と言われてマネしたことがありますが、結果はさっぱりで...。友人はメロディなどを感じる能力が高かったのだと、この本を読んでわかりました。
自分に合うやり方を探すこと、そして、ひとつのやり方に固執しすぎないで次々と変化させていくことも大切とのこと。
たくさん英語を聞くだけではダメ?
英語を話すために、まずはインプットすることが大事だという研究結果があります。確かに知らない単語やフレーズは話せるようには決してならないので、納得ですよね。
とはいえ、単に音を流して耳に入れるだけではダメで、内容を理解しながら聞かないと身につかないという研究者もいます。
そしてそれだけでも足りないという声も。内容を理解しながら聞いたあと、それを声に出して使ってみないと英語力は伸びない、と言ったのはカナダの学者、スウェイン氏。
「少し背伸びしながらの(つまりチャレンジのある状況における)アウトプットで知識を検証し、再編成していかねばならない」
私はこの研究結果に大いに納得しました。通訳ガイドの実践の場で、準備してきた英文スクリプトを緊張感の中で使うことで、グッと英語力があがったと感じるという経験を何度もしているんですよね。
達人の英語学習方法を紹介
次は、実際に達人たちがおこなってきた学習法を紹介するパートです。
学習の段取りを立てよう
この本の達人たちの学習方法については、選りすぐりの達人18名のインタビューと、達人たちが著した学習記録本69冊を主な根拠にしています。
そこでわかってきたことは、どの達人も、
- 目的をもって、
- 指針をつくり、
- 計画を策定し、
- 修正していく
という段取りを経ているということ。
これが著者の言う、自分を客観的に見て行動する「メタ認知」という能力。
「達人たちは、決して行きあたりばったりに英語(外国語)を学んでいるのではなく、計画的に学んでいるようです。」
当たり前のことだと思う人もいるかもしれないですが、意外とできていないこと。最初だけ勢いがあってフェードアウトしてしまうのってここに原因がありそうだと思いました。
「毎日こつこつ」と「短期集中」のどちらも取り入れよう
言語学習は毎日こつこつすることでしか伸びない、とよく言われますが、短期留学などで力をつけて帰国してくる人もいますよね。
私も長年、どちらが効果的なのかの答えが出ずにモヤモヤしていたんです。しかし、ここで言語の技能の習熟のためには両方が必要だと言いきってくれていて、スッキリしました。
定期性と集中性は一見すると相反するのですが、どちらも必要なやり方だとのこと。スポーツや将棋、茶道などの研究でも同様の結果がでているというのは面白いと思いました。
また、使い分けについては、
「集中した勉強は、少し英語がわかり始めた時に導入するといい」
「定期的な勉強は、初期から達人の領域に達するまで万遍なくする」
ということが書かれていましたよ。
レベルごとに学習方法を変えよう
この本では、リスニング、リーディング、スピーキング、ライティング、ボキャブラリーなど、項目別に達人のおこなってきた勉強法が紹介されています。
その中で特に興味深かったのは、達人は英語の習熟度によって学習法を変えていた、という点。「深く、細かく」と「浅く、広く」の学習法は、両立しないというのが筆者の考え。
初期〜中期 | 中期 | |
---|---|---|
リスニング | くり返し一字一句深く細かく聞く | いろんなジャンルの素材を大量に聞く |
リーディング | 分析的に読む、構文などもおさえる | 大意をとりながらの多読へ |
スピーキング | 間違いをおそれずにどんどん話す、流暢さが大事 | 正確さに気を配る、自分の言いたいことを伝えられるように |
コンビニのおにぎりを食べながら初めての道をドライブをすることの難しさに例えていてクスッと笑いましたが、たしかに人が注意できる量というのは無限ではないんですよね。
それも、どの部分のトレーニングを先にするのか、という順番も大事だとのこと。
たとえばスピーキングの場合、流暢に発話ができるようになってから正確な文章を目指すのが良いとのこと。それにはこんな理由があります。
「正確に話すことに気を配りすぎると、情報量の減少を招きます。すると、その会話の有益性は下がり、誰もがそんな人とは会話をしなくなり、いきおいコミュニケーションの機会が減るというわけです。」
初期〜中期は、リスニングやリーディングでは細かい点に注意しながら、スピーキングでは気にせずどんどん発話するのでOK。慣れてきたら逆転させるのが効果的なようですよ。
「達人の英語学習法」の良かった点
- 学習法に関するモヤモヤがすっきりする
- 学習を進める道筋が学べる
- 成功した学習者のやり方をまとめて読める
- 専門家の研究結果をキャッチアップできる
英語学習の大前提となる基礎知識を、専門家からわかりやすく学べます。これらを頭にいれた上で学習を始められるとすすめやすくなります。
それもこの本は、多くの選りすぐりの英語の達人の学習記録本をまとめたもの。その中から自分に合いそうなものを選択して実行することができます。
「達人の英語学習法」の気になった点
- 具体的な学習法にはあまり詳しく触れていない
この本では、具体的にどんな教材をつかってシャドーイングを何分おこなう、などのような詳しいトレーニング方法についてはあまり書いていません。
ここで英語学習の基礎知識を頭に入れた上で、自分に合った手法をピックアップして、教材となるものを探す必要があります。
「達人の英語学習法」はこんな人に読んでほしい
- 英語学習を久しぶりに始めたい人
- 効果がある学習法を知りたい人
- 様々な英語学習法から選びたい人
- 専門家の研究について興味がある人
この本は、英語学習を始めようとしていて、きちんと効果がある学習法の中から自分に合う方法を選んでやっていきたいと思っている人に向いています。
専門家の知見なども取り入れた上で学習計画をたてていくことで、しっかりとした英語学習をすすめることができます。
まとめ
読みやすい文体で書かれているので、ともすると小説を読んでいるかのようにすらすらと読みきってしまいそうになりますが、実は中身が濃い本だと思いました。
書かれたのは2007年と10年以上前ですが、今でも十分に役立つ内容がわかりやすくまとめられています。一回サラッと読んでから気になるところを再度読み返したいような本です。
この記事では私が特に気になったところをピックアップしてご紹介しましたが、ほかにもたくさんの有益な情報がつまっています。気になった方はぜひ本を手にとってみてください。