英語学習における大人と子供の違い

年の大半を外国のお客さんと旅する通訳ガイドのMarikoです。

子供にさせたい習い事の上位にランクインする英会話教室ですが、自分の子供にいつから英語を学ばせようかと悩んでいる親は少なくないと思います。

また、早期教育がいいともてはやされている今、成長してから始めるのでは意味がないのかなと不安になる人もいるかもしれません。

結論からいうと、現在多くの研究結果から、なるべく早く英語教育を始めたほうが効果が高いと言われています。と同時に、大人になってからの英語学習の効果も確認されています。

この記事では、子供と大人の英語学習の違いについて、言語の専門家の研究結果などを交えてご紹介していきたいと思います。

言語習得のメカニズムを理解した上で学習ができるといろいろと腑に落ちると思います。子供の英語学習を考え始めた時、また、大人が学習でつまづいた時などに参考にしてください。

記事の目次

子供と大人の英語学習はどう違うの?

まずは子供と大人が英語学習をする際、どんな特徴や違いがあるのでしょうか。

子供も大人もそれぞれ得意不得な分野があるんですよね。

  子供の場合 大人の場合
音声認識
抜群に能力が高い
特に7歳くらいまで

子供に比べると
能力は低下
記憶力
非常に高い
特に好きなものに対して

子供に比べると低い
関連づけて覚えるのは得意
論理的思考
幼少期は苦手
小学校高学年〜高まる

理論的に物事を
考えるのが得意
忘れる能力
すぐ忘れるが、定着すると一生モノ

定着まで時間がかかるが、使っていけば忘れにくい

子供は、音声認識や記憶力が非常に高いため、英語を学ぶのにはとても有利です。

特に7歳くらいまでは、正しい発音を習得したり、言葉では説明しにくい a や the の使い方などを自然に身につけることができると言われています。

子供はどんどん覚えますが、どんどん忘れます。でも定着できると一生使える知識やスキルとなります。もちろん継続していくことはとても大切ですが。

一方、大人の場合、音声認識能力は子供には及びませんが、単語やフレーズを関連づけて覚えたり、文法的にしっかりした文章を身につけることが得意です。

大人は覚えるまでに時間がかかるので、相当繰り返しインプットしないといけないという違いがあるんですよね。

それでは、その理由について詳しくご説明していきます。

子供が母語を獲得していく過程

子供が母語を獲得していく過程

そもそも言語ってどうやって身につけるのでしょうか。

まずは、子供が日本語を習得して過程をたどってみると、

  • 1歳くらい:意味のある言葉を発し始める
  • 1歳半ごろ:50語程度。語彙爆発期始まる
  • 2歳くらい:200語程度
  • 5歳くらい:5,000〜10,000語程度。言葉のカテゴリー化が始まる

のように、5歳くらいまでにある程度のコミュニケーションができる言語能力を習得していきます。

それでは順にみていきましょう。

1歳半ごろ訪れる「語彙の爆発」期

初めて意味のある言葉を発し始めるのは1歳前後から。その後、1歳半ごろにはいわゆる語彙の爆発期を迎えます。

ものに名前があることに気づき、「なに?」「これ?」と聞くようになります。1日5〜10語というスピードで単語を記憶していくというから驚きです

また、そのくらいから徐々に「ここ、のんの」のように二語をつなげることも覚えていきます。「てにをは」はもうちょっと後ですが、ちゃんと意味のある文章になっていくんです。

最初は目に見えるもの、体験したことなどを次々と吸収していき、5歳くらいになると言葉のカテゴリー化が始まり、言葉の組織化と再生化が始まります。

「聞く」から「話す」へ

1歳くらいで突然言葉を話し始める子供ですが、その前は何をしているのでしょうか?

それは、「じっと耳を澄まして大人のことばを聞いている」と言われています。そこから、喃語もしくはクーイングといって「あーうー」のような意味の伴わない声で練習し始めます。

つまり、子供はまずは「聞く」力を使い、何度も何度も練習をしながら「話す」力につなげていくんですよね。

また、子供は次第に聞くだけでなく「会話をする」ことを覚えます。相手が話していることに耳を傾けて、その次に自分が話すという交代の規則も覚えていくんです。

幼稚園や学校にあがると、今後はお友達とのやりとりがでてきます。そして実践の中で、言葉をコミュニケーションツールのひとつとして身につけていきます。

子供はどうやって単語や発音を覚えるの?

それでは、子供はどうやって単語や発音を覚えていくのでしょうか。

「聞く力」と発音の関係

舌ったらずに話す子供はよくいますが、これは発育の途中段階で起きている場合が多く、ほとんどの場合は成長するに従って直っていきます。

しかし、「さかな」が「たかな」になったりと、間違った発音になることがありますよね。程度にもよりますが、就学前検診などで指摘されて言語聴覚士と発音訓練を受ける場合があります。

この訓練で興味深いのは、これらの子どもの多くは音の違いを上手く聞き分けられていないといいます。つまり、うまく聞き取れていないから話せないんです。

基本的には、子供は音声認識の能力が優れています。特定の発音が苦手だった子供も、音を聞き取る訓練と舌の使い方の練習をすることで、正しい発音を身につけていきます。

この「聞く力」は、母語だけでなく、第二言語を学ぶ上でもとても大事な要素。この頃の子供の「聞く力」は抜群に長けています。

文字と「読む力」「書く力」

小学校にあがる前くらいに文字を身につけていきますが、このことによって知っている言葉が増加し、「読む力」と「書く力」が養われていきます。

このようにして、「聞く」「話す」「読む」「書く」のアウトプットを年齢に合わせて使い分けながら、子供は母語を4、5年かけて習得していきます。

これは現在の英語教育で重視されている、四技能と一緒です。私たちは、日本語を習得する際にも、まさに同じステップを踏んでいたことがわかると思います。

今までの日本の英語教育は「読む」「書く」に多くの時間を費やしていました。

しかし、こうして子供の母語の習得過程をたどっていくと、「聞く」「話す」をもっと取り入れていかないと話せるようにならないのは明白なんですよね。

子供にいつから英語を学ばせるといいの?

子供の第二言語学習

それでは、その母語を習得している子供が、合わせて第二言語としての英語を学ぶ場合、脳の中では何がおこるのでしょうか。

言語習得能力はいつからついてくるのか

まず、大前提として確認しておきたいのは、赤ちゃんは語学の天才です。

言語聴覚の専門家であるパトリシア・クール氏によると、人間は生まれた時には、どんな言葉にも適応できる能力をもっていると言います。それも発音を習得する能力は、かなり早い段階から発達します。

たとえば、日本人が苦手とする「LとR」の発音ですが、日本人とアメリカ人の生後6〜8か月の赤ちゃんに聞かせた場合、どちらの赤ちゃんもしっかり聞き分けることができます。

そこの差が現れるのは1歳より少し前の時期。アメリカ人の赤ちゃんはよりよく聞き取れるようになりますが、日本人の赤ちゃんは聞きとりにくくなります。

どうやら日本人の赤ちゃんは周囲の音の統計をとりながら、「LとR」の発音の違いは自分には必要のない情報だと判断してしまうようです。母語を覚える準備を始めてるんですね。

とはいえ、そこから集中的に第二言語を赤ちゃんに聞かせていく実験をおこなったところ、母語の赤ちゃんと同レベルの聞き取り力をすんなり身につけていくことがわかりました。

つまり、ほおっておくと子供の脳は母語オンリーに対応した脳になっていきますが、しっかりと訓練を続ければ母語以外の言葉も高度に習得していくことができるんです。

第二言語習得の臨界期仮説

それでは、いつ頃までに第二言語の学習を始めるといいのでしょうか。

有名な説では、7歳までに第二言語の学習を始めた場合、ネイティブと遜色のない言語レベルを習得できると言われています。いわゆる「第二言語の臨界期」と呼ばれる仮説です。

渡米した年齢と英語の習熟度の相関関係
※Johnson, J. S. & Newport, E. L. (1989) “Critical period effects in second language learning: The influence of maturational state on the acquisition of English as a second language”より筆者が作成

これは、1989年に神経科学者のジョンソン&ニューポートが、アメリカに移住した3歳〜39歳の中国人と韓国人46名におこなった調査によるもの。

渡米した年齢と英語の習熟度の相関関係を比べたのですが、7歳までに渡米して英語を始めた子供はネイティブとほぼ同等の英語力に。しかし、その後に渡った子供は徐々に下がるという結果がでました。

この説に対して、母語との組み合わせや、言語能力のどの側面に注目するのかによっても変わるという議論も多くありますし、大人になってからでも可能だという説もでています。

とはいえ、子供の脳はとてもやわらかく、言語学習は早く始めたほうが有利だということはどの研究者も支持しています。

また、大事なのは子供が言葉の学習を「楽しい」と思うこと。子供は好きなものはどんどん覚えていきます。勉強としてではなく、遊びの延長として学べるとベストです。

「英語が楽しい」と思うともっと知りたいと思うようになり、「得意」になってさらに学習を続けるようになります。これこそが上達するための良いサイクルなんですよね。

バイリンガル教育の悪影響は?

以前は、幼児期に第二言語を学ぶと、母語の発達に悪影響を及ぼすと心配されていましたが、1970年代にカナダでバイリンガル教育が成功してからは、バイリンガルに育てることの利点に注目がいくようになりました。

カナダで行っているのは「フレンチ・イマージョン」と呼ばれるもの。年長さんから100%フランス語での授業が始まり、2〜3年かけて仏語の基礎を習得した後に、英語での授業が少しずつ入ってきます。

仏語の学習時間は小学校卒業時点でなんと5,000時間。日常会話がほぼできるようになるといいますが、そこで学んだ子供の母語や学力への悪影響は確認されていません。

むしろ、柔軟な思考や異文化に対する寛容性が身についたという例が多く、現在イマージョン学級は大人気。入るための抽選は、毎年高い競争率となっています。

今の日本の学校での英語教育は約1,000時間。少しでも近づけるためには、放課後にできる限り多くの時間、英語に浸らせる必要があります。

英会話スクールなどを利用したり、自宅で英語CDなどを聞かせたり。本気で話せるようにしたいのであればホームステイや留学の検討も必要かもしれません。

大人はどのように第二言語を習得していくのか

大人の第二言語学習

それでは大人になってから第二言語を学ぶのは無理なのかというと、それは一概に正しいとはいえません。

というのも実際、大人になってから本格的に英語を学び始めて、ネイティブと遜色ないレベルに話せるようになっている人たちがたくさんいるのも事実です。

論理的に言語構造を理解する

大人は、子供に比べて記憶力などは劣りますが、逆に秀でている能力もあります。

一番特徴的なものとしては、大人になるにしたがって養われる「論理的思考」。大人は文法や構文の規則などを理解する能力が優れています。

たとえば、1997年にハーレイ&ハートがおこなった調査では、第二言語を幼児から始めたグループと、中学生から始めたグループの両方で、より上達した人の特徴を比較しました。

すると、幼児から始めた場合、記憶力の優れた人が上達しやすかったのに対して、中学生から始めた場合は分析力が高い人がより上達したという結果がでました。

子供の頃は覚えるのは得意ですが、論理的に考えるのが苦手です。一方、大人になると構文や形態の規則などを理解しやすいため、正確な英語を習得しやくなるんです。

また、大人が英語学習を始める際にはしっかりした動機をもっていることも多いですよね。それも続けるための強みとなります。

大人の脳も学習によって変化する

2013年、医学博士の細田千尋氏のチームによって、興味深い研究結果がアメリカの科学雑誌「The Journal of Neuroscience」に発表されました。

それは、英語学習による脳の様子を確認する実験だったのですが、大人になってから学習した場合でも脳に変化があらわれていることがわかりました。

これは、18歳〜47歳までの日本人137名に対して行った調査でした。

さまざまな英語力の人を集めて行ったのですが、まず英語能力が高い人の脳では、右前頭葉のある箇所が特に発達していることを突きとめました。

そして、次に英語ができない人に4か月、毎日1時間学習をしてもらいました。すると、英語能力は30%上達し、右前頭葉の英語能力が高い人が発達していた部分が、なんと6%も大きくなっていたんです。

また、その訓練の1年後に検査をしたところ、実験のあとに英語学習をやめてしまった人の脳は元に戻っていましたが、続けた人の脳はそのまま維持されていました。

これは、学習を続けることができれば、大人の脳でも「英語ができる脳」に変化できるという可能性を示唆する明るいニュースです。

継続するためにどうしたらいい?

大人が語学学習をするのに、最も大切なものは「継続」です。

子供の頃に身につけた能力は、例えばスポーツでもブランクがあっても復活することってありますよね。しかし、大人になってからはそもそも身につくのに時間がかかり、定着も難しくなります。

それも大人になると、仕事や家庭の事情などもあり、必ずしも学習の時間がとれない人も多いかと思います。しかし、ここをどう克服できるかで成功が決まるんです。

こちらの記事でも紹介したアメリカ国務省の研究では、アメリカ人研修生のエリートが日本語を習得するのに、2,400~2,760時間かかったというデータがでています。

私たちは義務教育で約1,000時間学習していますが、少なくともあと2,000時間ほど足りません。つまり、それなりに時間を投入していかないと英語を身につけることはできません。

毎日2時間かかさず英語学習をしたとしても1,000日、つまり3年弱必要です。言語を学ぶのってやはりそのくらい根気と覚悟がいるんですよね。

合う教材を見つけたり、継続のノウハウをもったスクールなどの力を借りたり、一緒に切磋琢磨できる仲間を探すなど、あらゆる方法を使って学習を習慣づけることが必要です。

まとめ

子供が母語である日本語を習得するのに4、5年かかります。そう考えると、第二言語として英語を身につけるのに、少なくても同じくらいかかるのは当然なんです。

子供の場合は、英語に徹底的に浸る時間を増やすことをおすすめします。そして、勉強というよりは遊びのひとつとして日常に取り込めるといいのではないかと思います。

子供にとって大切なのは英語を好きになってもらうこと。英語が「大好き」から「得意」になると自分から学ぶようになりますし、どんどん上達していきます。

大人の場合は、理論的に考えられるという特徴をぜひ生かしてください。文法などをしっかり理解しながら進めるのがいいと思います。

そして大事なのは学習の習慣づけ。環境を整えて毎日の学習時間をしっかり確保することが大切です。

ネイティブレベルになるのは簡単ではないですが、何歳からでも英語学習の効果があらわれることは証明されています。そしてやる気がある時が始め時です。

言語学習は魔法が使えないので、1日1日の積み重ねが大事となります。まずは日常会話で困らない英語レベルを目指して、コツコツと学習していきましょう。

参考文献:

Kuhl, P. (2011) “The linguistic genius of babies” TED Talk

Johnson, J. S. & Newport, E. L. (1989) “Critical period effects in second language learning: The influence of maturational state on the acquisition of English as a second language”

Harley, B. & Hart, D (1989) “Critical period effects in second language learning: The influence of maturational state on the acquisition of English as a second language”

Hosoda, C., Tanaka, K, Nariai T., Honda M. & Hanakawa T. (2013) “Dynamic Neural Network Reorganization Associated with Second Language Vocabulary Acquisition: A Multimodal Imaging Study”

細田千尋(2019)「脳科学で今年は必ず続く「英語学び直し」」『PRESIDENT WOMAN Online』

西川朋美(2018)「子どもの第二言語習得研究と日本語教育―JSL の子どもを対象とした研究と実践への道しるべ―」『子どもの日本語教育研究』第1号

中島和子(1998)『バイリンガル教育の方法』 アルク