photo by Jeff Djevdet
ボストンまでの道中は、それはそれは楽しいものでした。ボストンをよく知っていて、英語ができる旧知の友人と一緒なのですからもうこわいものなし。これから一夏を過ごすボストンでの日々に期待が一杯で、テンションも最高潮でした。
ひとつめの失敗:ルームメートから逃げてしまったこと
語学学校に到着し、一通りの手続きをすませ、そこでいったんホームステイのホスト先に向かう友人と別れました。一人になり、途端に心細くなりながら、この先1ヶ月滞在することになる寮の部屋に向かいました。
不安と期待でどきどきしながらドアを開けた私の目に飛び込んできたのは、賑やかかつ華やかな、メキシカンの女の子たちの集団。
割り当てられた8人部屋のルームメートのほとんどがメキシカンで、その部屋は寮内のメキシカンの女の子たちのたまり場所になっているようでした。室内に飛び交っていたスペイン語のおしゃべりが、私が部屋に入ると、一瞬だけ止まりました。
彼女たちは一斉に私を見て、「ハロー」とにっこり笑ってフレンドリーに挨拶をしてくれたましたが、すぐにまたおしゃべりに戻り、スペイン語での怒涛のガールズトークが再開されました。
今の私だったら、もっとうまく振舞えると思います。もちろん緊張はするだろうけれども、むしろその環境を喜んで、多少無理してでも、メキシカンの女の子たちの輪に入っていくと思います。
イギリス留学時代はメキシコから来た英語教師のグループがいて、彼らがとても明るくてフレンドリーで気持ちのいい人たちだということも知っていますし、親近感も抱いています。
ですが、その当時の私にとって、彼女たちは初めて接するメキシカン。メキシコどころか、たぶんそれ以前に南米、そしてスペイン語圏の人に接すること自体、初めて。
さらに、集団。しかも、年頃の女子。ただでさえ緊張していた私は、完全にひよってしまい、その輪の中に自分から入っていく勇気など到底なく……その後もタイミングを掴めず、1ヶ月の滞在中、彼女たちと親しくなることはありませんでした。
ここで、ルームメイトのメキシカンの女の子たちと交流を持たなかったことで、英会話の実践の機会だけではなく、彼女たちが教えてくれただろう、メキシコの文化を知る機会も逃してしまいました。
せっかく高い航空券代と語学学校のレッスン費用を払ってボストンに滞在していたのに、日本では得にくいだろう、またとないふたつの機会を無駄にしたことになります。
ふたつめの失敗:上位クラスから逃げてしまったこと
語学学校のクラスは、学校に課されるレベルテストで決まります。ペーパーテストが得意だった私は、上位クラスに振り分けられました。
クラスに日本からの留学組は4人。中学からの友人、超優秀な九州の高校生の男の子二人、あとはフランス、ドイツ、メキシコなど国際色豊かな顔ぶれでした。
上位クラスに選抜され、少なからず誇らしい気持ちでいた私の自尊心は、クラスが始まった途端、木っ端微塵に砕け散りました。
先生の話も、クラスメートの話す英語も、とにかく、まったく、聴き取れない。先生の指示がわからないのですから、クラスが今何をしているのかもつかめません。
「さあ、会話の練習をしましょう」とクラスメートとペアを組んでも、自分の意思を英語で伝えられるかどうかという以前に、まず相手の言っていることが理解できない。
先生からも、クラスメートからも、「この人大丈夫?なんでこのクラスにいるの?」と訝しく思われている気がして、さらに、そういう自分の姿を旧友と年下の子たちの前で晒していることも恥ずかしくてたまらなくて。
とにかく、ものすごく居心地が悪かったのを覚えています。ここでも、その場に圧倒されてしまった私は、そのクラスでねばって英語力をより向上させるよりも、何もわからず、居心地のよくない状態から抜け出すことで頭が一杯になりました。
そして、自分から学校に頼んで、クラスのレベルをひとつ下げてしまいました。この選択も、今の私なら、絶対にしません。
多少恥ずかしい思いをしても上位クラスに残って、自分より上のレベルの英語に毎日触れ、出身国も異なる彼らから、英語だけではなく、彼らの文化も学ぼうとするでしょう。
またしても、当時の私はせっかくの素晴らしい機会をふたつも、自分から放棄したことになります。
みっつめの失敗:易きに流れてしまったこと
そして、なんとなく出鼻をくじかれてしまった私は、居心地の悪い環境に自分を追い込んででも英語を向上させる、ということはせず、日本からの留学生たちとばかり一緒に過ごして、ボストンでの時間を心地よく、楽しく過ごすことに優先度合いを置いてしまいました。
ボストンの美しい街並みの中を散歩したり観光したり、友人の思い出の場所を訪ねて歩いたり、週末には長距離バスに乗ってニューヨークまで出かけたり。
それはそれで、本当に新鮮で、楽しい日々でした。語学においても、平日は毎日授業を受けていたわけですから、もちろんある程度語学力は向上しました。
街でちょっとしたやりとりを英語で交わすくらいには英語を使う環境にも慣れ、普段会わないだろうクラスメートや、日本からの留学生たちとも楽しく過ごしました。
ですが、メキシカンのルームメートたちからも、上位クラスからも、自分が逃げてしまった恥ずかしさはずっとついてまわっていました。
最初の居心地の悪さから安易に逃げてしまわず、もうちょっとしっかりと向き合っていれば、あの1ヶ月をもっと違う風に過ごせていたんじゃないかな、と今強く思います。
井の中の蛙にとどまらず、少し広い世界に出て行こうとすること
当時の私は、英語力に関してはまさに井の中の蛙。大学受験準備で必死に英語を勉強し、英語の成績では塾のなかでも、全国模試でもいつも上位を保ち、「自分は英語ができる」という意識をもっていました。
あくまで受験英語という限定的なシステムの中でだけのことなのに、その、笑ってしまうくらい小さな枠組みの中でしか、自分を見ることができていませんでした。
その意識を引きずったまま大学生活を始め、初めての夏季休暇で向かったボストンで、もう少し広い世界に接し(それだって、ボストンの語学学校という狭い枠組みでしかありませんが、あくまで当時の私にとっては)、そこで明らかになった自分の英語力の現状に、ちゃんと向き合うことができませんでした。
今から考えると、当時の私は、英語力全般において、最初に振り分けられた上位クラスのみなと比較して、劣っていたわけではないと思います。
ただ、おそらく圧倒的にリスニングとスピーキングが弱く(これは日本型受験勉強で鍛えた英語力を持つ多くの方々にも当てはまる傾向だと思います)、リーディング・ライティングとの実力のバランスが、かなり不均等だったのだと思います。
理想をいえば、
- ボストン短期留学前に、自分の英語力の弱点を知っておき、なんらかの対策をとっておくべきだった。
- そこまでいかなくても、ボストンでの1ヶ月を、リスニングとスピーキングを徹底的に鍛える機会として、捉えるべきだった。
と今なら、思います。
当時の私はそこまで頭が回らず、ただひたすら「自分は英語がやっぱりできない……」という劣等感で一杯になり、しかし同時にボストンでの楽しかった思い出も沢山抱え、帰国しました。
それからしばらくは大した反省もせず大学生活を大いに謳歌し(大いにお酒も飲み……)、大学2年に進んだ頃から、3年の春からの留学を目指して、また英語学習に勤しむことになりました。
しかし、これから留学を予定されているみなさんには、以下の3つを考えておくことを、お勧めします。
- 自分の実力(特に弱点)を把握しておく
- 留学前に可能な限りその弱点を改善しておく
- 留学中にするべきこと、したいことを意識しておく
- (あとは楽しむ!)
語学力の上達というのは、留学中に得られる体験のほんの一部に過ぎません。
それよりも、それまで自分が身を置いていた場所よりも、少し広い世界に接して、異なる文化背景を背負った人たちと関わる。そういう環境に自分の身をさらすことが、ずっと大事だと思います。
その新しい環境を楽しむためにも、語学力で足をひっぱられてしまうのは非常にもったいないので、そういう意味でも、「2.留学前に可能な限りその弱点を改善しておく」が非常に重要になってくるのかな、と思います。