2013年英語教授資格CELTAの体験記

著者:和木田信一郎

今年の夏のシーズンは、ハワイで、国際英語教師育成の4週間集中コース(CELTA)を取りました。

CELTAは、英国ケンブリッジ大学認定の英語教師資格で、主に英語を母国語とするネイティブや上級英語修得者の人が、英語を母国語としない世界中の人に英語を教えるための英語教授資格です。

海外では、最も国際社会に広く受け入れられている英語教授の資格であり、国際標準資格の地位を築いています。

今回受講した集中コースの実習生は、ネイティブのアメリカ人英語講師4人(中近東での教師経験のある人や埼玉での英語講師経験など)と英語学博士課程の日本人英語教師、そして私の合計6人でした。

実習生を指導するチューターは、この道15年以上のベテラン・ネイティブのアメリカ人英語教師2人。

ハワイ大学のマノア校(ホノルル)へ

場所は、ハワイ大学のマノア校(ホノルル)。

ハワイ大学マノア校は、ESL(English as a Second Language:第2外国語としての英語)教育では、全米随一との評判があり、米国の総合大学(公立)でこのCELTA集中コースが運営されているのは、テキサス大学オースティン校(テキサス州)とハワイ大学マノア校のみです(なお、民間の語学学校では、International Houseなどで行われています)。

実際の教育実習、スキル・知識の授業、論文審査は、第二外国語学部英語学プログラム(HELP)のキャンパスで行われました。

まあ勉強量と言えば、豪州で国際経営学修士(MBA)を取った時以来のハードなもので、実質、サマー・セッションの10ウィークないし3ヶ月分相当のコースと言えると思います。

でも、チューター曰く、「ワンセメスター(4~5ヶ月)分はあるわね」。

具体的には何をしたか

具体的に言うと、午前9時から12時半までは、座学でした。

Receptive skills<聞取り・読取りスキル, Phonology<音韻論、発音、ストレス他>, Lesson Plannings<授業計画作成>、言語分析<時制、構造、意味理解、語彙、機能他>)、第2言語の教授法(PPP=presentation-practice-production、TTT=test-teach-test、Induction(帰納)アプローチ、課題中心学習法他)、ビジネス英語、幼児向け英語、クラス管理法その他。

午後からは、レッスンプラン(授業計画作成)支援と具体的な授業計画作成、そして教育実習、実習へのフィードバック(指導教員、ピアレビュー<実習生からのアドバイス>)でした。

教育実習は、実際に英会話/英語を学びに来ている留学生(8名から14名で一クラス)に、4週間で8回の模擬授業をします。

そのための準備がLesson Plan作成と課題(演習問題)作成となります。大体、毎日朝8時すぎから実習生室(一部屋確保されてました)に入り、午後6時半から7時頃まで過ごしてました。

週末は、次のLesson Plan作成(課題作成が大変)と論文作成(一週間に一論文1000ワードx4回)で精一杯のスケジュールでした。

Lesson Plan(下記写真参照)は、映画のシナリオみたいなもので、横軸に、stage(段階)、そのstageの目標(何を修得させるか)、役割(先生⇒生徒、生徒⇒先生、生徒⇔生徒)、教授手順(具体的な授業内容)と各段階の時間配分となっています。

縦軸に、各stage(段階)で教える内容の項目ごとで、8~10段階になっています。教える内容は、リスニング、リーディング、文法、語彙(ボキャブラリー)、機能(例えば、同意/不同意の表現、丁寧表現など)。

CELTA Lesson Plan

伝統的な教授方法とコミュニカティブ・アプローチ

さて、CELTAで採用されている教授法は、基本が「コミュニカティブ・アプローチ」です。もちろん「座学」といっても、教授方法は、「コミュニカティブ・アプローチ」です。

ここで、「伝統的な教授方法」と「コミュニカティブ・アプローチ」の違いを説明しておきましょう。

伝統的な教授方法とは、「オーディオ・リンガルメソッド=ALM」と言います。ALMでは、英語などの言語は、口頭練習で反復して覚えるものだという考えに従って行われます。

教師が授業の中心的存在で、パターンを徹底して教え、生徒はそれを反復して覚え、半ば無意識的に応答できるまで練習することを目指します。

一方、「コミュニカティブアプローチ」は、生徒(学習者)中心の授業で、生徒が自分自身で考え、学習することを重視します。

英語を使って、現実の世界でコミュニケーションできる能力の向上を目的とします。教師は、いわばコーチのような存在ですね。

現実に使える英語を目指しますので、課題やテキストは、すべてauthentic(現実生活の生の)素材)を使用します。

CELTA教授法では、この「コミュニカティブ・アプローチ」を土台に、時には、教師のプレゼンテーション(説明・講義)をはじめに短くやって、練習(ライティングとスピーキング)、そして生徒同士での即興会話作文などを進めます。これはPPPという手法です。

生徒の理解を確認する2つの方法

また、生徒が意味を理解しているかについても、2種類の質問の仕方があります。ICQ(Instruction Checking Questions=教授的なチェック法)とCCQ(Concept Checking Questions=概念チェック法)などです。

どうも、これまでの英語教授法のいい所を積極的に取り入れているようです。文法、語彙などでは、タスク中心の「フォーカス・オン・フォーム」(発音も含む)が使用されているようです。

CELTAでは、生徒のコミュニケーション能力の向上が最大の目的ですので、教師としては、生徒のコミュニケーションの場が上手くつくられるようなレッスンプランを整えるのも重要な役割となります。

これに要する時間が大変でした。参考となる優良(第一級)テキストは、実習室に常備されてましたので、それらを読み込むだけでもとても勉強になりました!

生徒同士の会話、議論、クイズ、ロールプレイ、ゲームを使った学習などが有効な方法として取り入れられています。

とにかく、英語を暗記させるというよりも、その状況に合った英語表現を自分の力で考え、生み出して、本人・パートナー(会話の相手)およびクラス全体で英語を分かち合い、知らず知らずに英語力を身につけさせるという新しいシステムになっています。

教師中心の教え方(教わり方)しか知らなかったわたくしも、「TTTを少なくして、STTを最大限にしましょうね」というチューターからのアドバイスに耳を傾けた4週間でした。

Teacher Talk TimeとStudent Talk Time

TTTとは、Teacher Talk Time(教師の話す時間)のことで、STTとは、Student Talk Time(生徒の話す時間)のことです。

考えてみれば、生徒自身の話す時間がなくて、コミュニケーションのための英語力がつく筈がないでしょうし、現実の生活・仕事の中では、自ら考えながら話すのは、母国語修得と同じ学習過程でしょう。

また、自分の経験から考えても、パターン(暗記)どおりの会話は、挨拶や決まり文句などに限定されるのに対して、中級以上の英語学習者には、いかに相手とコミュニケーションが取れるか(=話の内容が相互に通じるか)が一等大事であって、スムーズな会話力向上には、こうしたアプローチのよさもあると思います。

おわりに

それにしても、よく、ついていけました。その理由を考えると、

  1. ハワイは気候も良く(年間の日中は30℃前後に上がりますが、朝晩は25℃前後と想像以上に過ごしやすい)
  2. 日本食も豊富で(日系の食品スーパーもあり、和食はかなり普及しています)
  3. 先生も実習生も(生徒も)素晴らしかったからだと思っています。

英語を武器にグローバルに働きたいと思っている人には、 国際英語教師の入り口として。

あるいは、これまでの英語教授法に飽き足らず何か創造的なアプロ―チを模索している現役英語教師の方々には、新鮮で刺激的な異次元体験が味わえるこのCELTA(英国ケンブリッジ大学認定の国際英語教師資格)はおススメできる資格です。

[当サイト参考ページ]

[外部参考サイト]

[参考図書]

コース中に使用したテキスト類(実習室に常備)。

  • Practical English Usage by Michael Swan
  • How English Works by Michael Swan and Catherine Walter (A Grammar Practice Book with Answers) 
  • Learner English: A teacher's guide to interference and othe problems 2nd edition, edited by Michael Swan & Bernard Smith, Cambridge Handbooks for Language Teachers Series
  • American Headway 1, 2, 3: The World’s Most Trusted English Course – John and Liz Soars © 2009
  • Grammar Sense 1, 2, 3, 2nd edition, by Susan Kesner Bland, Oxford University Press ©2012
  • Grammar in Use intermediate with Answers 2nd edition by Raymond Murphy with William R. Smalzer, Cambridge University Press ©2001
  • Grammar in Context 1, 2, 3, 5th edition, by Sandra N. Elbaum, Heinle Cengage Learning © 2010 
  • The Essentials of English -Writer's Handbook- by Ann Hogue
  • Understanding and Using English Grammar, 4th Edition, by Betty Azar and Stacy A. Hagen 
  • その他多数。