こんにちは、Kyokoです。私は2017年の初めの頃にTESOL資格を取得するためのコースをトロントで受講していました。

私が選んだ資格は「TESL CANADA」。この記事ではコースで何を学んだか、実際に受講してみてどうだったか綴っていきたいと思います。TESOL取得を考えている方に少しでも参考になれば嬉しいです。

記事の目次

TESOLって何?

TESOL・TESL・TEFLなど英語教授資格には様々な名前が付いています。

  • TESOL:Teaching English to Speakers of Other Languages(他言語を話す人に英語を教える)
  • TESL:Teaching English as a Second Language(第二言語として英語を教える)
  • TEFL:Teaching English as a Foreign Language(外国語として英語を教える)

TESOL/TESLとTEFLには以下のような違いがあると考えています。

TESOL/TESL:留学生や移民として英語圏に来た人に英語を教えるための資格。コースの一環として、英語圏で暮らす生徒の気持ちを理解することを学ぶ。

TEFL:講師が非英語圏に行き英語を教えるための資格。コースの一環として、講師自身が直面する文化の違いや言葉の壁をどう乗り越えるかを学ぶ。

ただどこで教えようとも「英語を外国語として話す人に英語を教える資格」には変わりないので、コース内容に大差は無い気がします。

総称としてはTESOLを使うことが多いのですが、カナダではTESL CANADAの知名度が高いこともあり、英語教授資格と言うとTESLと書くのが主流なようです。これらの資格については当サイト管理人の岩田がまとめ記事を書いています。

TESL CANADAとはどんな資格?

カナダは特にアジア・南米・中東からの留学先または移住先として人気の国です。英語学習者が多いカナダで英語教育の質を上げ、指導法を標準化することを理念としているのがNPO法人TESL CANADAです。

トロントには30校以上の語学学校があるのですが、大半がTESL CANADA保有を講師の採用条件としています。

TESL CANADA取得のための条件

TESL CANADA取得には以下の3つの条件があります。

(1)学士号(Undergraduate Degree)の取得

カナダ以外で学士号を取った人は、それがカナダでも認められるかどうか証明する必要があります。私は日本の大学を卒業しているので、単位認定書と卒業証明書をWESという機関に送り証明してもらいました。

(2)規定以上の英語力

TOEFL iBTもしくはIELTS Academicで英語力を証明する必要があります。英語圏で学士号を取った人は免除となります。

TOEFL iBT 101点以上/120点満点
(且つL23 R24 S27 W27以上)
IELTS Academic 7点以上/9点満点
(且つ四技能全てが7点以上)

(3)TESL CANADA指定の機関でTESLコースを修了

100時間の授業+20時間の実習を終え、課題を全てこなせばTESLコース修了書が発行されます。

上記3つを証明する書類をTESL CANADAのオフィスに提出して承認されると、晴れてTESL CANADA取得となります。

資格を取得しようと思った理由

私は20歳まで海外に住んだことがありませんでした。小学3年生の頃から週1回英会話教室に通わせてもらっていたため中学や高校では英語が得意科目でしたが、それでも同じ学年にいた帰国子女の友達には到底敵わず悔しい思いをしていたのを覚えています。

大学では英語を専攻し、在学中に交換留学制度を使ってオーストラリアに1年間留学しました。

大学卒業後はもっと英語力を伸ばしたい、留学経験を活かして日本人の留学サポートがしたいという思いからシンガポールとカナダにある語学学校に日本人スタッフとして勤務しました。

カナダで勤務していた語学学校も、TESL CANADA保有を講師の採用条件としていました。これからのキャリアについて真剣に考えなくてはと思っていた時期に、TESL CANADAを持つ講師と話す機会が多くありました。

英語圏で英語を教えるというのはどんな感じなのだろうという思いからコース受講に至りました。今は英語圏に住んで4年経つので日常生活に支障が出ることはあまりありません。

ですが海外で育ったわけでもインターナショナルスクールに通っていたわけでもないので、今でもネイティブと話すと知らない単語はたくさん出てきますし、彼らと同じスピードで話すこともできません。

非ネイティブの私がTESOL資格を取得するにあたり感じたことも書いていきたいと思います。

TESLコースの概要

私はTESL CANADA認定の教育機関の中でCCLCSというスクールを選びコースを受講しました。

CCLCSは移民のためのクラスも開講しており、後の実習ではその移民クラスを2週間担当することになります。CCLCSを選んだ理由は授業が生徒参加型(Interactive)と聞いたためです。

簡単な入学テスト

CCLCSに履歴書とカバーレターを提出し、テストと面接を受けました。テストには英語学習者の文法ミスを直して理由を説明するなどの問題がありました。面接はなぜ講師になりたいかなどの質問を含む雑談でした。

英語力が基準を大きく下回っている場合、また面接での態度があまりに悪い場合を除いて、ほぼ全員受け入れを行っていると感じました。

ちなみにTESL CANADA取得には学士号と英語力の証明が必要ですが、TESLコース受講時点では取得しておいた方が好ましいものの必須ではないそうです。

期間と費用

TESL CANADAが定める規定に従い、コース期間は下記の通りでした。

  • 授業(Lecture):
    5時間x週4日x5週間=計100時間
  • 実習(Practicum):
    15時間見学+10時間実演=計25時間(約2週間)

そして費用は合計約16万円でした。(2017年当時)

  カナダドル 日本円
登録料 $140 12,600円
コース料 $1,545 139,050円
テキスト代 $90 8,100円
合計 $1,775 159,750円

注)1カナダドル=90円で計算

クラスメイトの国籍

クラスの人数は14人。その内11人はカナダ・イギリス・オーストラリア出身のネイティブでした。私を含め3人が非ネイティブで、国籍は中国・マケドニア・日本でした。

同じ英語圏という括りでも国によって異なるスラングが使われていたり、私たちが母国でどのように英語を習ったかという話がネイティブには新鮮であったりと、様々な国から生徒が集まっていたからこそ新しい発見が多くありました。

年齢は20代・30代・40代・50代がそれぞれ25%前後だったと思います。大学卒業後すぐの人もいれば、定年後に英語を教えたいという人もいました。

講師について

講師はカナダ人女性のJ先生で、タイやカナダで7~8年英語を教えてきた方でした。授業でどんな知識を得るよりもJ先生の教え方をお手本にした方がためになると思ったほど、人間性も教え方も本当に素晴らしい講師でした。

TESLコースで学ぶ内容

前置きが長くなってしまいましたが、本題に入ります。100時間の授業は盛り沢山な内容だったのですが、大きく分類すると「英語の知識(文法・品詞の役割・発音)」と「教授法(教え方・講師としてのあり方)」を学びました。

教材は、「英語の知識」では『Teaching English Grammar』を、「教授法」では『How to Teach English』を使用しました。


『Teaching English Grammar』(画像右)、『How to Teach English』(画像左)

先程書いたようにCCLCSは生徒参加型の授業です。

文法を学ぶにも教授法を学ぶにも常に皆でアイディアを出し合い(Brainstorming)、誰かが意見を発表している状態でした。J先生が長時間一方的に話すことは一度も無かったと思います。

(1)英語の知識

まずは英語講師として持っておく必要がある「英語の知識」です。日本の中学や高校で学ぶことを掻い摘んで学習するイメージです。ここでは時間をかけて学んだ文法項目を紹介します。

現在完了(Present Perfect)と過去完了(Past Perfect)

下の画像は私が授業中に取っていたノートです。皆さんもこのように時間軸を書いて覚えませんでしたか?

英語講師になるためのコースでこんなことを習うのかと私も最初は驚きました。ただ英語環境で育ったネイティブにとって、いきなり現在完了と過去完了の違いを説明するのは容易くないようです。

余談ですが、日本では go-went-gone などと動詞の活用を覚えますよね。しかしネイティブはこのように英語を学んでいないので、日常生活であまり使わない動詞だと過去分詞を知らないことがあります。

swim の過去分詞は swum と知らないクラスメイトが多く、非ネイティブである私たちがネイティブに文法を教えるという面白い光景が何度もありました。

助動詞(Auxiliary Verbs)

助動詞には can・will・may・used to・have to などがあります。それぞれの助動詞に様々な使い方があるため英語学習者はかなり苦労するそうです。そのためTESLコースでも時間をかけて学んだ記憶があります。

例えば、

Can you please open the door?(ドアを開けてくれますか?)
I can swim very well. (私はとても上手に泳げます。)
His story cannot be true.(彼の話は本当なわけがない。)

これらが「能力・依頼・可能性」の内、どの意味で使われているかをグループで話し合ったりしました。

品詞(Parts of Speech)

下記は英語学習者がよく使ってしまう文章です。どこを直せば良いか、そしてどう説明すれば良いか分かりますか?

(1)Almost students are happy with the new teacher.
(2)I went to downtown yesterday.

正解は、

(1)Almost all the students are happy with the new teacher.

Almost は副詞です。副詞は名詞を修飾できないので students の前につけるのは間違いです。形容詞 all を入れることで正しい文章になります。

(2)I went downtown yesterday.

Downtown は名詞としても使われますが、目的地として表す場合は原則副詞です。home と同じですね。to の後には名詞しか置けないので to を消します。

英語圏の語学学校はスピーキングに力を入れているというイメージを持つ方も多いと思いますが、実際はかなり文法を重視しています。文章を品詞に分けて説明する力は大変重要になるそうです。

(2)教授法

次に教授法です。TESL CANADAでは CLT(=Communicative Language Teaching)を重視しています。

これはコミュニケーションを通して文法や表現を学ぶ教授法を意味します。これを実践するために大事なのが、TTT(Teacher's Talking Time) < STT(Student's Talking Time)

すなわち、先生が話す時間より生徒が話す時間を多く確保することです。そしてCLTを実現するためのレッスンの進め方として WPPP と PDP を学びました。

レッスンの進め方(1):WPPP

主に文法や構文を教える時に使います。ここでは仮定法過去を教えるレッスンとします。

(1)Warm-up(ウォームアップ)

「1億円当たったらどうする?」という質問でグループワーク。まだIfの文章は使わない。

(例:Imagine you win 1 million dollars from the lottery. Tell me how you will use the money.)

(2)Presentation(テーマ導入)

解答を発表してもらい、仮定法過去の文章にする。ここで仮定法過去の作り方や意味をカバーする。

(例:If I won 1 million dollars from the lottery, I would buy a house.)

(3)Practice(練習)

仮定法過去を使った文章を作る練習。空欄補充や間違え探しなどの問題を解く。

(4)Production(実践)

身近なことに置き換えて実践。テーマに沿ってペアで会話文を作り全体で発表。

(例:What would you do if you could travel to Japan?)

レッスンの進め方(2):PDP

こちらはリーディング練習に使える方法です。ここでも生徒の発言機会がたくさんあります。

(1)Pre-reading

いきなりリーディングを始めない。まずは文章に出てくる難しい単語をピックアップして学ぶ。

(2)During-reading

時間を制限して文章に目を通す(Skimming)。要点をクラスで話し合い、次にじっくり読んで内容を確認。

(3)Post-reading

文章を理解できているか確かめる問題を出したり、要約文を書いてもらったりする。

下の画像は私がPre-readingのために作ったプリントです。記事にこれらの単語が出てくるため、記事を読む前に単語の意味を確認します。

そして教授法に加え、講師として知っておくべきことや気を付けるべきこともたくさん学びました。私が特に大切だと感じたことを3つ紹介します。

(1)知ったかぶりをしない

生徒の質問に対して咄嗟に答えが出ないこともあります。その時は曖昧な答えや間違った情報を伝えるのではなく「次のレッスンまでに調べておく」などと正直に言うことが大切です。

(2)ペアワークやグループワークを多く行う

特に人数が多いクラスではペアワーク(2人)やグループワーク(3~4人)を多く行うことで生徒の発言機会を増やします。母語が同じ生徒は別のグループに入れるなどの工夫が大切です。

(3)発言には細心の注意を払う

宗教差別・性差別・人種差別と取れるような発言をしないよう気を付けましょう。昔は普通に使われていても今は差別用語ととられる単語もあるので、特に私たちはしっかり勉強しておく必要があると思います。

TESLコースでの実践練習

授業で知識を得るだけでなく、実践の場があるのがTESL CANADAの良さだと思います。教えることの難しさ、そしてやりがいを少しだけでも知ることができます。

2度のデモレッスン

5週間の授業で20分のデモレッスンが2回ありました。1回目は上記WPPP、2回目はPDPに沿ったレッスンです。

レベルや内容は予め決められており、レッスン計画を作って講師に提出。アドバイスをもらって修正した後、デモレッスンを行います。その後はクラスメイトからフィードバックをもらいます。

人前に立つと早口になってしまう、時間内に終えられなかったなど自分の弱点を知ることができました。2週間の実習(Practicum)前にこのような機会があって良かったと思います。

2週間の教育実習

ついに教育実習です。先程書いたようにCCLCSは移民向けの英語クラスも開講している機関です。私は下記移民クラスを担当しました。

レベル 3レベル/7段階(初中級)
人数と年齢層 15人/20代~50代
生徒の国籍 ロシア・イラン・韓国・中国
スケジュール 15時間見学+10時間実演(計約2週間)

普段このクラスを教えているK先生が、私の担当(Mentor)となり指導して下さいます。

1週間目はK先生のクラスを見学。クラスの雰囲気や生徒さんのレベルを大まかに把握します。2週間目は1日4コマあるレッスンの内2コマ(赤く囲んだ部分)を私が担当します。実際に教えたのは計9コマ、合計時間は10時間でした。

教えるべき文法やテーマはある程度決まっていますが、教材を作ったりアクティビティーを考えたりするのは全て自分です。

5分刻みでのレッスン計画を立てたので、この1週間は毎日2時間睡眠でした。K先生は毎朝私のレッスン計画を確認、レッスン中は教室の後ろで見守り、レッスン後にアドバイスを下さいます。

実際に教えてみると予想していなかった質問をする生徒がいたり、携帯に気を取られる生徒がいたりと、レッスンは思うように進みませんでした

板書でスペルを間違えたり、説明に時間を費やし過ぎたりと反省点もあります。ただ私なりに英語学習経験を活かし、生徒さん全員を気にかけること、発言機会を平等に与えることを徹底しました。

K先生は「日に日に良くなって行った」と褒めて下さり、生徒さんとも打ち解けることができました。

TESLコースを終えての感想

無事100時間の授業と2週間の実習を終え、修了書を受け取ることができました。

授業について

文法は特別難しいとは感じませんでしたが、それでも知らないことはたくさんありましたし、何よりJ先生の教え方が大変参考になりました。

教授法に関しては、具体的にどのようにレッスンを進めると生徒の発言機会を増やせるか学べたので大きな収穫でした。皆で意見を出し合うスタイルの授業だったので頭をフル回転させる必要があり、そのおかげで学んだことが身に付いたと感じます。

実習について

実際に生徒さんの前に立ってレッスンを行うことで、自分の得意分野や弱点を知ることができました。

担当のK先生は私を温かく見守って下さり、生徒さんも明るく素敵な方達でした。入念にレッスン計画を立てたので、不安はあったものの自信を持って生徒さんの前に立つことができました。

私が非ネイティブとして感じたこと

文法が得意なネイティブももちろんいますが、私のクラスでは非ネイティブの方がより得意な傾向にありました。

流暢さや語彙力でネイティブに勝つのは難しいですが、生徒さんの気持ちを理解したり文法を分かりやすく説明したりすることができるのは非ネイティブならではだと思います。

ネイティブでないからと劣等感を感じる必要は決して無いと思いました。ただしトロントの語学学校ではネイティブもしくはネイティブと同等の英語力を持つ講師が求められています。

生徒さんのお手本となる英語を話すためにも、英語力を上げるために努力し続けることは不可欠だと感じました。

TESOL取得を考えている方へ

TESL CANADAを含めTESOL資格を取得するためのコースでは主に「生徒の母語に頼らない教授法」を学びます。そのため海外で日本語を使わず英語を教えたい方や、国内であっても英語オンリーの学校で教えたい方に特にお勧めです。

授業ではかなり時間をかけて文法を学ぶので、中学や高校で学んだ文法を復習し、さらに文法用語を英語で覚えておくことをお勧めします。

そうすることで積極的に授業に参加でき、英語講師を目指すクラスメイトとの人脈作りにも繋がると思います。

ネイティブが多い環境で積極的に発言し、2週間という短い期間ですが実習を行う機会もあるので、コースを無事修了すると自信に繋がります。その自信はこれから講師としての道を歩む時、きっと役立つと思います。