アジアトップクラスの英語力を目指す日本政府と、テンションの低い中高生たち
2020年の東京オリンピックへ向け、政府は、小中高の「英語教育」を抜本的に改革しようとしています。
14年2月に発足した有識者会議の提言には、「グローバル化の中で、国際共通語である英語力の向上は日本の将来にとって極めて重要」とか、「アジアの中でトップクラスの英語力を目指す」など、鼻息荒い文言が踊ります。
一方で、ベネッセ教育総合研究所の調査によると、約5割の中高生は「将来、自分が英語を使うことはない」と考えているようです。
政府の、「世界トップクラスの英語力」という期待とは裏腹に、子供たちは「将来、自分が英語を使うことはないだろう」と、やけに冷静なのです。一体、なぜでしょうか。
中高生は、英語の重要性を認めつつも「自分は使わない」と考えている
ベネッセ教育総合研究所による調査は、14年3月、全国の中学1年生~高校3年生6294人を対象に行われました。
現在の英語授業の実態について尋ねたところ、「英文を日本語に訳す」「単語や英文を覚える」「文法の問題を解く」などは、中1~高3まで、ほぼ8割以上で実施されています。
英語の「読み書き」については、多くの中高生が取り組んでいるのですね。
一方、政府が「コミュニケーション力向上」のために重視する、「自分の気持ちや考えを英語で書く」「自分の気持ちや考えを英語で話す」は、それぞれ中2の58.1%、55.9%をピークに減少していきます。
大学受験や就職を控えた高3になると、「自分の気持ちや考えを英語で書く」は34.8%に、「自分の気持ちや考えを英語で話す」は26.3%にまで減ってしまうのです。
高3になると、大学受験の英作文対策のため、「自分の意見を英語で書く」トレーニングを行う学生もいるでしょうが、「英語で話す」となると、4人に1人もいないのが現状。
受験や就職に、英語で話す能力は、それほど必要ないからでしょうか。
とはいえ、約9割の中高生は、「英語を話せたらかっこいい」「将来、社会では英語が必要」とも考えているのです。
その一方、将来「自分が英語を使うイメージ」については、半数近い中高生が「英語を使うことはほとんどない」(中学生 44.2%、高校生 46.4%)と回答しています。
ベネッセでは、「中高生は社会での英語の必要性はわかっていても、自分自身が英語を使うというイメージは低い。
普段の学びで英語を使うことが少ない現状を考えると、中高生が英語を使うイメージを持てていないことも当然の結果かもしれない」とコメントしています。
将来、英語を使う機会は本当に「ない」のか?
いくら中高生の半数近くが、「将来、英語を使うことはないだろう」と思っているとしても、今後、ビジネスで英語の重要性が増していくのは確実です。
「子供たちよ、そんなに受身でいいのか!」と、カツを入れたくなってきました。現実には、「英語ができないと、将来困るぞ!」というデータが、きっとあるはずです。
まず、TOEICが上場企業304社を対象に実施したアンケート(2013年)を見てみました。そこでは45.7%の上場企業が、「業務で英語を使う部署・部門がある」と答えています。
また、「特定の部署・部門はないが英語を使うことはある」企業は29.3%で、合わせて75%の企業が「うちでは英語を使うことがありますよ」と言っているのです。
やはり、英語を身につけておいて損はなさそうです。ところが、語学力を測る「TOEICスコア」を「昇進・昇格の要件としている」上場企業は、わずか16.6%。
「将来、要件にしたいと考えている」を入れても約4割で、半数近い上場企業は、TOEICを「昇進・昇格の要件にしていないし、今後もするつもりはない」と回答しています。
昇進にあたって、英語力を重要する企業はそれほど多くありません。
経団連が新卒社員に求める能力「語学力」は1割以下
次に、経団連による「新卒採用(2014年4月入社対象)に関するアンケート調査」(2014年9月公表)を見てみましょう。
経団連会員企業のうち660社に、新卒の「選考にあたって特に重視した点」を5つ選んでもらったところ、トップは「コミュニケーション力(82.8%)」、次いで「主体性(61.1%)」「チャレンジ精神(52.9%)」などとなり、「語学力」は15位(7%)にすぎません。
語学力は、入社してから伸ばしてもらえばいい、そのために「主体性」や「チャレンジ精神」が求められている、と解釈できないこともありませんが……。
「新卒はともかく、中途採用では、語学力が必要なのでは?」と思い、転職活動中の知人に頼み込んで、ある総合求人サイトを覗いてみました。
マイページを開いてもらい、「想定年収600~1000万円、職種はITマーケティング系」の求人を、15社閲覧します。
それくらいの層なら、語学力が求められてもおかしくはありません。が、募集要項で「語学力」について明記してあるのは、15社中、たったの2社。
しかも「英語初級」とだけ書いてありました。その15社の中には、海外支社をもつ企業もあります。
「英語初級」で本当にいいの?と驚きましたが、もしかすると、語学力は新卒と同様、「働きながら身につけてもらえば結構」なのかもしれません。
結論。英語力はあった方が良さそうだが、なくても困窮することはない
いくつかのデータを見てみましたが、現状では社員に高い英語力を求める企業は、それほど多くなさそうです。
「英語はできた方がいいけど、できなくても困窮するほどではない」というところでしょうか。
筆者の周りでも、外資系企業や大企業などで、多くの「英語が得意な人」が活躍しています。英語ができないと、お話にならない業務も少なくありません。
そこで高い成果を上げた人たちには、当然、高収入や社会的評価も約束されています。ただ、英語を使わない仕事で活躍している人も、沢山います。
日本人全員が「英語ペラペラ」になる必要は、ないのでしょう。
政府が鼻息荒く「グローバル人材の育成を」とか「アジアでトップレベルの英語力を」と言っているのを尻目に、中高生の半数が「将来、英語を使うイメージがもてない」のは、こうした現状を反映しているのかもしれません。
もちろん、語学力を身につけておいて「損はない」というのは、事実だと思いますが。