ここ最近、外国人が「日本ってスゴい!」と礼賛するテレビ番組が目立ちます。日本の一糸乱れぬ列車ダイヤや、おもてなしの接客などを、外国人が褒めまくる……という企画。テレビだけではありません。

今年に入ってから刊行された書籍では、『日本人のここがカッコイイ!』、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?「ニッポン大好き」の秘密を解く』、『日本の将来はじつに明るい!』など、1ヶ月に1冊以上のペースで、日本を褒め称える本が出版されているのです。

2020年の東京五輪へ向けた盛り上がりもあるのでしょうが、以前は、これほどあからさまな「自画自賛」ムードはありませんでした。

90年代はむしろ、「日本のここがダメ!」と、ある意味「ドM気質」をバンバン刺激してくるコンテンツの方が、人気があったのです。それはなぜでしょうか。

「ひ弱な男」と「フワフワした女」の国、日本……が大ヒット

今でこそ「日本礼賛本」が人気ですが、バブル崩壊後から90年代にかけて書店の棚を席巻していたのは、「日本なんて全然ダメ!欧米を見習え!」と、女性論客が斬りまくる本でした。

代表格は、イギリスの貴族と結婚(その後離婚)した評論家、マークス寿子さんや、ドイツ人と結婚した作家、クライン孝子さん。

たとえばマークス寿子さんの著作は、『大人の国イギリスと子どもの国日本』(1992年)、『ひ弱な男とフワフワした女の国日本』(1997年)、『ふにゃふにゃになった日本人――しつけを忘れた父親と甘やかすだけの母親』(2000年)など、いずれも90年代から00年代にかけて刊行され、ベストセラーに。

タイトルからして刺激的ですが、内容は「イギリス=成熟、日本=未熟」という公式を立て、日本社会をぶった斬るというもの。

痛快で、当時は反発より、賛同の方が多かったものです。筆者が小中学生の頃は、田舎の図書館でさえ、新刊コーナーで順番待ちが数十人いたと記憶しています。「ふにゃふにゃになった日本人」と言われて、喜ぶ日本人が沢山いたのです。

クライン孝子さんも、『歯がゆい国・日本――なぜ私たちが冷笑され、ドイツが信頼されるのか』(1997年)、『歯がゆいサラリーマン大国・日本――なぜドイツ人は、不況にも動じないのか』(1999年)など、やはり「ドイツ=成熟、日本=未熟」という公式から、欧米目線で日本をダメ出ししました。

これが、90年代の日本人には大受けしていたのです。「なぜ?」と、疑問に思う方も多いでしょう。当時の日本人は、えらく「ドM気質」だったのでしょうか。「そうではない」というのが筆者の仮説です。

「海外経験のある高学歴女性」たちの日本批判が受けたのは、それが「日本の若者批判」だったから

外国人と結婚した高学歴女性が、日本の悪いところをぶった斬る。このパターンが受けていたのには、理由があります。当時は長引く不況で、多くの日本人が自信を失いかけていました。

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代は遠く過ぎ去り、山一證券も北海道拓殖銀行も潰れ、女子高生は売春し、少年たちはキレる。

「こんな社会に、誰がした!」という、憤懣(ふんまん)やるかたなきムードが満ちる中、マークス寿子さんや、クライン孝子さんといった「海外経験のある高学歴女性」たちの日本批判が受けたのは、それが「日本批判」というよりは「日本の若者批判」だったからです。

彼女たちは、日本批判をしているからといって、決して(ネットスラングでいうところの)「サヨク」ではありません。クライン孝子さんは、“あの”曽野綾子さんと共著まで出しているくらいです(『なぜ日本人は成熟できないのか』2003年)。

マークス寿子、クライン孝子両氏は、高い学歴や、欧米人との結婚、そして海外生活といった、ある種の「箔」をつけて、「日本のバカな若者・親・教師・サラリーマンたち」を批判したのです。

90年代、保守論壇の一部では、こうした論調が歓迎されました。海外の知見を武器に、「日本人の奥ゆかしさや賢さは、いつの間に失われてしまったのだ」と、主に若年層を批判する。

これが、自信を失いかけていた中高年層の心をつかんだのです。ちなみにマークス寿子さんには、海外でブランド物を買い漁る日本の若い女性を批判した、『自信のない女がブランド物を持ち歩く』(2002年)という著作もあります。

タイトルがビビッドです。とにかく、今の日本の「中間層」を批判したいとの思いが透けて見えますね。

こうした論客達は、日本全体を批判しているように見えて、実は「自分より下の世代」をぶった斬っていただけなのです(関連記事として、『「欧米人男性と結婚した日本人女性」が、日本の若者を批判したがるのはなぜか』も是非ご参考にしてください)。

日本を「愛しているからこそ批判する」のはいいけれど

最近では、彼女たちのような保守論客は、あまり見かけません。保守系論壇では、『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか』(2010年)などの著作が大ヒットした竹田恒泰さんなど、「日本礼賛タイプ」が人気のようです。

女性で光っているのは、ツイッターやコラムが人気の「めいろま」さん(谷本真由美さん)ですが、彼女を「保守」と言ってよいかは微妙です。

谷本さんの「日本批判」は、バッサバッサと「ドM気質」を煽りつつ、右左の壁を、ゲスな単語で乗り越えてくる。

これまた、新しい日本批判かもしれません(ただ彼女も、夫は欧米圏の人と聞いていますので、そこはマークス寿子、クライン孝子両氏と共通していますね……国際結婚した女性による日本文化論がヒットする要因も、考えてみたいところです)。

話がそれましたが、自国に対して、ある程度、批判的な眼差しをもっておくことは、決して悪いことではありません。愛しているからこそ批判する、そういう形の愛国心があってもいい。

ですが、90年代にヒットした「日本批判本」の例からも、その内容が適切な「日本批判」なのか、それとも「単なる日本の若者批判」なのか等々、見極める必要はあるでしょう。人々がこぞって買い求める「日本論」は、今も昔も、玉石混交なのです。