言語を習得する - 子供と大人の違い

子どもは何歳までに母語を獲得するのか

初語 - 子どもが初めて口にする意味のある言葉は生後1年ほどで現れると言われています。1歳から2歳頃までに子どもの話す言葉の数は急速に増えて約200までになると言われています。

1歳半頃には50語程度を話すようになり、いわゆる「語の爆発的増加期」を迎えます。物に名前があることに気づき、物をさして「なに?」「これ?」と大人に名前をいうことを求めるようになります。

1日5〜7語もの早さで語彙を身につけ、5歳になる頃には5,000〜10,000語も習得すると言われています。

さらに1歳半を迎える頃には「ここ、のんの」のように2つの意味のある言葉をつなげて1つの意味を持つ文を産生するようになります。

これは世界的にも共通していて、日本語でいう「てにをは」のような機能語は欠けているものの「これに乗りたい」「ここに座りたい」などの意味を持つ2語を話すようになるのです。

子どもたちはさらに相手の言葉を「聞く」ことを覚え、会話をするようになります。相手の話していることに耳を傾け、自分が話すという交替の規則を理解するようになります。

しかし、子どもの語彙の習得はいたって非効率的です。大人と違い、語をカテゴリーで組織化することができません。また[物]ではない[概念]は経験しないと言葉として習得しづらいものです。

それでも5歳頃にかけて、カテゴリー化が始まり、言語の組織化、再生が行われます。そして小学生になる頃には文字を身につけ、「読む」ことを通してさらに言葉の発達は広がっていくのです。

言語の習得臨界期仮説

では大人と子どもではその言語獲得の過程に違いはあるのでしょうか。有名な「第二言語の習得臨界期仮説」を取り上げてみます。

この仮説は元々は1967年にLennebergが子どもが何らかの原因で5歳頃までに言葉に触れる機会がないと、母語としての言語を獲得出来ないというものでしたが、その後、第二言語の習得論についても、議論される題材となりました。

今では言語の様々な側面(文法や発音等)によっても異なるという議論にまで展開されています。

Steven Pinkerという有名な認知心理学者によれば、5−6歳の学齢期から脳の代謝活動やニューロン(神経細胞)の数が衰退し始め、12−15歳頃に底をうって横ばいになるという、脳の成熟に伴う器質的変化が言語獲得に影響を及ぼしていると言われています。

ある研究によると学齢期の子どもが脳の左半球(言語をつかさどっている)に損傷を受けても、言語を習得したり、回復することができるのです。

大人が同様の損傷を受けると失語症といって、ある程度の回復はしても完全に戻ることは難しいと言われています。それだけ子どもの脳は文字通り「やわらかく」、「適応しやすい」と言えるでしょう。

経験としての言語使用が「言語習得」を可能にする

子どもが言語を獲得していく過程には、「じっと耳を澄まして大人の言葉を聞いている」時期が存在すると言われています。

そしてそれを真似して話しているようなcooing(喃語)の時期を経て、しっかりとした発話になっていきます。さらに学齢期になって文字を覚え、書物を読むことによって語彙数が増加していきます。

皆さんも実際には「話している言葉」よりも「知っている言葉」の数のほうが多いのは容易に想像がつくと思います。

大人が第二言語を習得する過程にあっても「聞く」「話す」「読む」「書く」は全て必要な経験であり、どれが欠けても「操る」ようになることは難しいと言えるかもしれません。

子どもと比べると大人のほうが認知能力は高いので文法や抽象語を「覚える」ことは得意なはずですが、「話す」「書く」機会を持たなければ、道具として操ることは難しくなってきます。

幼児教育に英語を導入する動きがありますが、むしろその後の学校教育の中で「読み書き」にも英語の使用が導入されれば、定着は進むのかもしれません。