外資の入社時点で求められる英語力

こちらは「外資系証券への就職に必要な英語力、その実態とは?」の続きです。

前回に引き続き、日本の大学・大学院を卒業予定の学生を対象とした「国内新卒採用」における外資系証券の採用活動の実態を解説します。

今回は、内定者に行われる英語研修の内容と入社時点での英語力の実態について詳しく述べていきます。 

内定者が外資系証券に入社時点で求められる英語力の目安

TOEIC800程度 です。

外資系証券の場合、国内の学校を卒業予定の学生については内定出しの時点でビジネスの場で必要な英語力が十分ではないというケースが多くあります。

それは前回説明したように英語力の高さをスクリーニングのプライオリティ“高”に据えていない職種も多い、という理由があるためです。

また、国内新卒採用では内定から入社までに通常一年以上の期間があることから、その期間を使って英語の研修を受けてもらい、実際に入社式を迎える時点では英語でビジネスコミュニケーションができるレベルまで達してもらう、ということが行われます。

その目安は、TOEICスコアでいうと800以上、です。しかしこの数字はあくまでも指標でしかありません。

なぜならビジネスコミュニケーションに必要な英語力はTOEICなどの試験では測れないため、です。 これについては後半で詳しく述べます。

内定者に行われる英語研修とは?

英語研修の内容は、たとえばEメールのライティングやビジネスコミュニケーションの基礎(ミーティングでのディスカッションなど)について、英語学校と提携するなどして学んでもらう、というもので、会社や職種によってはそれらの費用をすべて負担するケースもあります。

その場合内定者は会社のお金で英語学校に通えるというベネフィットも受けられる、ということになり、もともと新卒採用にコストをかけない外資の企業がそれだけのコストをかけるということは、「この人材にはそれだけのポテンシャルがある」=「かけたコストに見合った業績を出してくれるはず」と判断している、ということになります。

つまりその人材には英語力以外の武器が十分にあり、また、入社までに必要な英語力を身に着けられるだけの学習能力もある、と判断されたということになります。

そして、この会社で働く以上は入社時には英語でのコミュニケーションができて当然という土壌があるためにそれだけのコストをかける、という前提があることも認識しておく必要があります。

実際に入社した学生の英語力と研修プロセス

ここで、実際に内定して入社した学生の、内定~入社までの英語研修のプロセスと入社後の英語力について二つのケースをご紹介します。

ケース1 証券のフロント業務内定者Aさんの場合

Aさんは応募時TOEIC800以上、同じポジションの内定者の中でも英語力は高い方でした。

内定者向けの英語研修も順調で、講師から「ビジネスを遂行するのに問題ない英語力」と判断されるレベルまで達するのにそれほど時間はかかりませんでした。

しかし本人は英語がまだまだだと常に感じており、講師からOKが出たあとも「まだ自分は自信がなく英語力が足りないのでさらに研修を受けたい」という希望を伝えてきました。

学習意欲が高いのは素晴らしいことなのですが、会社が内定者に求めているのは英語のスペシャリストになることではなく、英語でビジネス上のコミュニケーションをとれる、ということです。そのために会社が費用を負担しているという現実を認識することも必要です。

このケースでは講師がOKと判断した時点で研修は終了しました。実際にこの内定者は入社してから英語での業務遂行にとくに問題はありませんでした。

ケース2 証券のバックオフィス業務内定者Bさんの場合

Bさんは応募時TOEIC700台前半、海外渡航経験もなく、本人は「英語が苦手なのでまさかこの会社から内定がもらえるとは思っていなかった」とかなり英語コンプレックスをもっていました。

このケースでは入社までにあまり日数がなく、TOEICスコアから判断して入社時までにビジネスコミュニケーションが問題ないレベルになるというのは難しいように思われました。

そのため短期の英語留学に行ってもらうことなども検討しましたが、現場のマネージャーやディレクターが面接をした際の評価が非常に高く、「この人物はコミュニケーション能力が高いので英語が苦手だったとしても問題はなく、業務にも支障はない、現場としては一日も早く来てほしい」と要望があり、結局英語留学は勧めず、通常の英語研修のみ受けてもらいました。

実際にこの内定者が入社したチームのメンバーは多くが外国人という環境でしたが、入社後すぐにその環境にも馴染み、チームメンバーとのコミュニケーションも英語で円滑にできていました。

日本人は英語コンプレックス?

ここで紹介した二人には共通点があります。それは、いずれも初等~高等教育(小学校~大学・大学院まで)をすべて日本国内で受け実際に入社した、ということと、どちらもそれぞれ内定時点では英語に対してコンプレックスを持っていた、ということです。

しかし二人とも英語以前にその職種に求められる能力を備えていたこと、コミュニケーション力そのものが高いことや学習意欲が高いことなどから、英語研修の状況も、入社してからの英語での業務遂行も、まったく問題はありませんでした。

日本人の多くは、英語力がかなりある人であってもこの二人のように英語に対してコンプレックスをもっているのが現状です。採用に応募する時点でTOEIC700以上というのは、日本国内だけで学校教育を受けた学生としては、かなり高いほうです。

しかしグローバルな業界を目指す人はTOEIC900以上の学生も多く英語圏で高等教育を受けている人も大勢います。そのような人たちと対等に渡り合っていくためにはかなり高度な英語力が必要だと思われています。

しかし採用する側の本音は、TOEICや英検などの英語テストの結果がいくらよくてもそれをその応募者の強みとは判断しない、というのが実態です。

英語というものは言語であり、コミュニケーションツールです。TOEIC900以上あっても英検1級もっていても実際に「業務で使える英語」でなければ意味がありません。

「業務で使える英語」とは?

では「業務で使える英語」とはどのようなものでしょうか?TOEIC800以上程度の時点でネイティブが話すスピードの英語を聴き取って大意を理解する、英文を一回読んだだけでだいたいの論旨を理解する、というInputについてはおおむね身に着けているはずです。

ですから入社時点ではTOEICスコアならその程度を目安とする、と初めに書いたのですが、そのうえで、あとは英語であろうが日本語であろうがその身に着けているものをどれだけ応用し活用できるか、言語の応用力と適切なOutput、これにつきます。

適切なOutputというのは、とくに外資系企業の場合には証券に限らず、会議の場できちんと論理的に自分の意見を述べることができる、というのが何よりも重要なポイントです。

しっかりと相手の話を理解し、自分の意見を主張する。議論し、交渉し、調整することができる。これらはいたずらに語彙を増やしたり単にテストのスコアをあげたりすればできるようになるものではありません。

たまに知らない語彙があったとしても文脈から、あるいは語幹や語感から推察できるというのは基本的な言語能力の部分ですし、そもそも日本語でも理解力や発言力、応用力や交渉力のない人は英語でももちろんそれらを発揮できません。

まとめ

国内で高等教育を終えた人を積極的に採用するポジションでは、まずは日本語を適切に運用できること、その上でビジネス上のコミュニケーションに必要な「業務で使える英語」を入社までに身につけ運用できること、が求められます。

決して英語スペシャリストを求めているわけではないので、この点は強調しておきたいと思います。

そのためこのようなグローバルな業界にチャレンジしてみたいという希望はあるものの英語力に不安があるので採用応募は躊躇してしまう、という場合であっても、そのポジションで必要とされる能力を伸ばしたりコミュニケーション力を磨いたりすることなどでチャンスは十分にあるといえるでしょう。

以上、第1回目の前回と2回目の今回は、国内の学校を卒業する学生を対象とした新卒採用活動における英語力と内定者の英語研修、入社時の英語力などの実態について説明しました。

次回は海外の大学を卒業する予定の日本人留学生を対象とした新卒採用活動における英語力と実態について解説します。