外資証券に必要な英語力

第1回目:外資系証券の一般的な採用事情と、日本の大学・大学院を卒業予定の学生を対象とした採用活動における英語力の実態

グローバルなフィールドで活躍したい、と願う就活生や社会人にとって就転職先として目標に挙げられる業界のひとつが、外資系金融機関。

なかでも証券のM&Aアドバイザリー業務に代表される証券アナリスト、セールス、トレーダーなどは依然人気が高い職種です。

そのようなフロント業務以外でもバック・ミドルオフィスでの採用という形もあるものの、学生や業界未経験者には英語の壁もあり採用応募もチャレンジング、というのが現実です。

ここでは実際に外資(米国)金融グループの人事採用担当として勤務していた筆者の経験から、就職・転職者にとって気になる英語力と採用活動の実態を3回にわたって解説していきます。

第1回目の今回は外資系証券に代表される金融業界の一般的な採用事情と、日本の大学・大学院を卒業予定の学生を対象とした「国内新卒採用」における英語力の実態について解説します。

学生さん向けの内容が中心ではありますが、転職希望の方にとっても参考になる部分はあると思います。

※2回目、3回目の内容は以下の通りです。

外資系証券への就職・転職に必要な英語力、現実の”最低ライン”

結論から言うと、TOEIC720程度です。

これは新卒であっても中途であっても同じですが、日本の学校を卒業する・した方を対象とした採用活動において、応募者が応募する時点で求められる英語力の最低ラインはTOEIC720程度、というのが目安になります。

「意外と低い」と思われるかもしれませんが、これはあくまでも、応募時点での「最低ライン」です。

当然ながら職種によってかなり幅があり、現実に新卒であっても800程度以上が望ましい、というポジションもあります。

実際に内定に至った学生のTOEICスコアも700~900程度まで、と幅広いのが現状です。最低ラインを700程度でもよいとするのには理由があり、それについては後半で解説します。

証券をふくむ外資系金融機関の一般的な採用活動

それでは、具体的に外資系金融機関の採用活動について説明していきます。

外資系の採用活動は金融業界に限らずポジションごとに行い、空きポジションがあるところに募集をかける、というスタイルが一般的です。

現場ですぐに通用する即戦力を求めているため、新卒の学生やその業界未経験者にとっては非常に厳しいフィールドであることは事実です。

当然ながら、英語力以前にそのポジションの職務を遂行できるだけの能力、ポテンシャル、人格を総合的に判断するための採用活動が行われます。

金融業界、中でも学生に人気の高い証券のM&Aアドバイザリー業務やミドルオフィス業務などではチームワークもかなり求められるため、採用のスクリーニングの過程でチームワークを評価するグループワークを実施することもよく行われます。

(中途採用の場合には当然ながら経験と実績がもっとも大きな判断材料となります。)

英語力は武器になる?

英語力に関していうと、とくに国内の学校を卒業する学生を対象とした採用ではTOEICスコアが高いからといってそれが採用の決め手となることはあまりありません。

それは、外資系であっても日本に法人を置いている以上、顧客は日本人であり、顧客と直接接するポジションの場合には英語力の前にしっかりとした日本語運用能力が必要とされることが多く、そのようなフィールドにおいて活躍できる日本国内の学校を卒業する学生を採用したいという目的で国内新卒採用を行うから、という理由が根底にあります。

また、もともと日本語力より「高度な英語力」を求めるポジションならば日本の学校を出ている日本人を採用する必要はなく、海外で採用した人材を配置すればよい、という外資系ならではの理由もあります。

とくに日本の学生に人気の高い「証券アナリスト」については、長文レポートが必要になりますから当然のことながら英語力以前に高度な日本語運用能力が重視されます。

実際の業務ではどの程度の英語力が必要?

そうはいっても外資証券に入社すると社内がほとんどすべて英語環境であるというケースもあり、内定者に送られてくる入社関連書類がすべて英語であるとか、入社後PCの設定一つとっても一から自分でインドなどに設置されている自社のサポートセンターに英語で問い合わせなければならない、といったようなことが起こります。

また、世界各国から集まっている同僚とのコミュニケーション、米国などにある本社や他の国にある営業拠点とのリアルタイムのオンラインミーティングや研修、取引などのために英語力は必要不可欠となります。

それではTOEIC720程度では足りないのでは?という疑問が当然出てくるかと思いますが、日本国内の学校を卒業する予定の新卒の学生の場合、内定時は700程度のスコアであっても入社までの期間が通常一年以上と長いため、その期間を使って英語の学習をしてもらう、ということを行います。この英語研修については次回詳しく説明します。

採用活動のポイントは?

近年はインターンシップ採用も多いので、インターン生として職務を経験するとともに英語力を含めその業界で働く社員の実態を見ることもできます。

日本の会社と異なり、丁寧に新人教育をするという環境はあまりないため、インターンとして採用された場合にもどれだけ自分で必要な能力を開発していくことができるか、という姿勢が常に必要とされます。

自分に英語力が足りないと感じるのであればその問題を解決する能力が求められるのです。

したがって外資でもっとも求められる能力の一つは英語力ではなく問題解決能力であり、面接時に必ずといっていいほどその能力について問われることを認識しておいてください。

面接は英語でも行われる?

採用面接が英語で行われるかどうかについてはそのときの面接担当者と職種によりますが、国内の新卒採用では「高度な英語力」を採用基準に置くことは少ないので、英語で面接が行われるケースもそれほど多くはありません

ただ、だからといって英語の面接がゼロであるという保証はありません。

職種によっては面接官と1対1で5回以上面接が行われるケースもありますし、また、一度に8人程度の面接官がいるケースもあります。

いずれの場合でも実際に面接官の中に英語しか話さない外国人がいたとか、マネージャークラスからの質問まではずっと日本語だったのにディレクターレベルになると英語だった、最終面接だけ英語だった、というようなことも起こりますので、ある程度の対策は必要と考えたほうがよいでしょう。

自己紹介は最低でも英語で話せるように練習しておき、なぜその会社を選んだか、その職種を選んだか、などの基本的な事柄についてはきちんと伝えられるように準備しておくことをおすすめします。

それ以外については、質問されたことが聞き取れない、聞き取れたが自分の考えをうまく伝えられない、という場合にはそのことを素直に伝え、「内定が決まったらこれから入社までにしっかり勉強します」という意思をきちんと伝えられればよいと思います。

以上、今回は採用活動を中心に解説しましたが、次回は内定~入社までの英語研修や英語力の実態について詳しく解説していく予定です。