photo by Jason Dirks

何とかフルタイムの仕事に潜り込んだ!といって安心してはいけません。日本では通訳・翻訳の仕事のほとんどが派遣の仕事であるため、3ヶ月(勤務初期は最短1ヶ月)で解雇可能です。

海外も、最初の数ヶ月は試用期間となります。エントリーレベルの人が犯しがちな(実際には私が前職などでやって迷惑をかけた)ことを、自戒を込めてまとめました。

「俺より先にGoogleに聞いてよ・・・」

新しい業界に入ると、その業界用語に慣れる必要があります。その中で、通訳・翻訳者にとって知らない単語が出てくることは必ずあります。その際には、その人の質問力が試されます

  • 「~」って何ですか?
  • 「~」という表現は、英語では(日本語では)何と言いますか?
  • 「~」という用語の意味が分かりません(聞いたことがありません)ので、教えて下さい。

上記のような質問の仕方は、基本的にはみな同系統のものです。

処方箋

自分でGoogleなどで検索しましたか?「知らないから聞く」はある意味で誰でもできます。まず自分で調べる癖をつけると、その時点で質問の量が多分半分以下位になります。

最近では業界用語の解説などをしているサイトや、日英対訳まで出ているサイトもあります。そういったサイトに載っている訳が正しいかどうかを確認したい、という趣旨の質問であれば理解できます。

また、「~を確認したのですが、わかりません」という質問の仕方の方が、質問された側の負担にならないのではないでしょうか。

「通訳担当が(新入の)Aさんじゃない人がいいです」

「この前の○○さんとの会議の話しなんだけど、Aさんが通訳で△△△って日本語を、XXXって訳したの。でもあれは違うと思うんだよねー。何か、あの人に当たると『えーーー』って感じちゃう。逆にベテランのBさんだと良かったって思う。」

こういった新入通訳の心を折る発言をする人がたまにいますが、この様な事態が発生してしまう最大の理由は、信頼感の欠如です。では、なぜ信頼感が欠如するのでしょうか?

もしかすると、以前別な会議で30秒かけて一生懸命懇切丁寧に説明したのに、新人通訳のAさんがそれを全部通訳せずに(覚えきれず)コアの情報のみを5秒でまとめて通訳した、といったネガティブな体験があったのかもしれません。

そこで、「この人はしっかりとやってくれない。自分の発言をしっかりと訳して欲しい。」という印象を持たれたかもしれません。さらにAさんは新しく入った業界での会議に入ったので、背景知識や用語が頭に入っておらず、苦戦を強いられているかもしれません。

用語の知識が無いのが原因となり、会議が混乱したかもしれません。背景知識を知らないと通訳できない会議で、パフォーマンスがイマイチだったりするかもしれません。こういった事が澱のように貯まると、不信感につながります。

通訳を使う側からすると「通訳」である以上、初めてだろうがベテランだろうが関係ありません。厳しいですが、「出来るかどうかが全て」になってしまう事が良くあります。背景知識や用語など、本来は使う側が気にしないといけないのですが、そういった要素はあまり気にしてもらえません。

そういった環境では、ベースの信頼感を勝ち得るだけのパフォーマンスに仕上がっているか、または「しっかりとやろうとしてる姿勢」を「使う側が感じるかどうか」が問われ、上記の良くない事例が繰り返し発生してしまうと「信頼関係」が大きく損なわれます。

処方箋

一刻も早く業界用語に慣れるために、勉強をする。しっかりとやろうとしている姿勢を感じてもらえるようにし、努力した結果を目に見えるアウトプットの向上で示す。

一ヶ月もいると、通訳をしながら内情や課題、専門用語やコンテクストも少しずつ分かり始めます(あくまでも少しずつですが)。また何が自分の課題なのかが見えてきます。

そういった情報を基に、自分の通訳パフォーマンスや翻訳のクオリティを上げる必要があります。数社経験すると、その勘所がつかめるようになり、適応に必要な期間が短くなっていきます。

「このレベルの通訳なら、俺がやったほうが良くない?」

バイリンガルの人の前で通訳をするのは緊張しますが、改めて考えるとエントリーレベルの時は特に苦しいと感じます。個人的に、通訳スキルとは、

英語力 x 通訳経験値 x 背景知識

という掛け算からなると感じています。これがもしエントリーレベルの通訳だと、

4 x 3 x 2 = 24

となるとします。ちょっと社内で英語ができる人だと多分こんな感じになると思います。

2.5 x 2.5 x 4 = 25

数値としてはほぼ同じですが、エントリーレベルの人より1点だけ上回っていますね。ちなみにかなりのレベルのバイリンガルで経験豊富な人だと、

4 x 3 x 4 = 48

という感じで、こうなるとエントリー通訳よりも、かなり上になります。「これなら俺がやったほうが・・・」と感じられてしまいかねません。そうなると、立場が怪しくなります。

処方箋

「英語で仕事をする」と「英語を仕事にする」の違いを明確にするため、早急に勉強・準備をしてパフォーマンスの改善を図るしかありません。バイリンガルの人にも「自分では、あれは無理だわ・・・やっぱプロだね」と思ってもらえる様にする必要があります。

とはいえ、「英語を仕事にするのにどのレベルのスキルが必要か」は、その会社や職場次第になるわけです。英語ができる人がたくさんいる会社なら、通訳・翻訳に求められるレベルが上がります。

逆なら期待されるレベルが下がりますので、そういった会社で仕事をする方が楽かもしれません(何とか要旨を伝えられるレベルでも、いないよりいたほうがいいから)。

直属の上司、または日本語あるいは英語ができなくて通訳依頼を出す人に、「あの人は必要」と言ってもらえるかどうか、この1点にかかっています。

エントリーレベルの中期目標をどこに据えるべきか?

仕事とは「自分がやるのが面倒な事」を誰かにやってもらうか「自分ができない事」を誰かにやってもらう事で発生します。職業に貴賎はありませんが、使う側視点で考えれば前者よりも後者の方が「高くても仕方ない」と納得しやすくなります。

一番の近道というか、分かりやすいスキルは普通のバイリンガルにできない「安定したクオリティで同時通訳ができる」ことです。エントリー通訳の当面の目標はこのスキルの獲得であり、それが自分の存在価値をアピールする最も手っ取り早い方法となります。

次回の記事では、キャリアアップに関してまとめます。